24
いつもの私の自室。時計の針の音だけが響いている。全部覚えていた。
「あ、目覚めた?」
「ナナちゃん、まだいたんだ」
「うわっ、相変わらずひどーい。親友のピンチに駆け付けてやったってのに」
清とする部屋にナナちゃんのケラケラとした笑い声は似合わない。
「何処の誰かが言ったのかなんて覚えてない」
「え?」
「生まれてきた赤ちゃんが泣く理由、知ってる?」
「えっと、あれでしょ?ちゃんと呼吸してるかってやつ?」
「……絶望してるんだって」
私は顔を逸らして壁をジッと見つめた。
「これから辛くて苦しい世界で生きなきゃならない。どうしてこんな世界に生んだんだって。責めてるの」
生まれ堕ちたそこは、残酷なほど辛い世界。生まれた瞬間、ただ死に向かって歩み続ける。それは、どうしたって抗うことはできない運命。
そう、それが運命。
生まれてきたこの子が私みたいに生まれたことを恨んだら、生み落とした母親を責めたら、私はどうしたら良いんだろう。
この子は人間で、この子は、私と同じように感じたり思ったりできる人間で、傷付いたり、死にたいなんて思ったら……。
「ねぇ、First nameちゃん」
唇を噛み締めて嗚咽を堪えていた私の背に穏やかな声が掛かる。
「大丈夫なんて言えない。その子は辛いことなんてない良い人生が送れるよなんてこと私は言えない。でもね、一つだけ、私にもFirst nameちゃんにもその子に言ってあげれることがあると思うの」
「……ッ」
「辛いことは本当にたくさんある。でも、ほんの少しに感じてしまうかもしれないけど、辛い分、幸せも必ずあるって」
「ふっ……ッ」
「コインに表と裏があるように、影と光があるように太陽と月があるように、悪と正義があるように、どちらか一つだけでは保ってはいられないんだから」
あぁ、神様!
それでも、どうか、この子だけはと思ってしまうのは私の傲慢でしょうか。
ナナちゃんは部屋を出て行った。一人になった部屋で私は声を上げて泣いた。
「会いたい!会いたいよ!」
クロコダイルさん!
どうかその腕で私を抱き締めて。そしたら、こんな不安消え去ってしまうから。[ 304/350 ][*prev] [next#]
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