22
ナナは苛ついていた。
ここは、赤髪海賊団レッド・フォース号の船上。春晴れ、波は穏やか、風は頬を撫でる程度。つまりは、良い天気だ。が、何故か、船内は雲行きが怪しい。
それは、一通の手紙がナナの元に届いたことから始まる。
「あいつら……、いったい何やってんのよ!」
手紙を持つ手が震えだしたと思えば、今にも手紙を破りそうな勢いで叫んだナナに、泣いているのかと勘違いして手を伸ばしていたシャンクスは危うく後ろにひっくり返りそうになった。
「ど、どうした?ナナ。そんなに怒ったら、大事な手紙が……」
「こんなの大事じゃない!……でも、まぁ、とっといて損はないわね」
ななは、くしゃくしゃになった手紙をいそいそと伸ばし、綺麗に畳んだ。
「で、何事だ?」
銃の手入れをしていたベン・ベックマンが、ちらりと視線をよこした。
「……」
折り畳んだ手紙を見つめながら沈黙しているナナの顔付きはいつもの変態さが微塵もない。男二人は顔を見合わせ、首を傾げた。
「一大事だわ」
「一大事?」
ぼそりと零したナナの言葉をシャンクスは拾う。
「親友の一大事よ!」
意気込んで立ち上がったナナの表情は言葉と裏腹に今にも泣き出しそうなのを我慢しているといった感じだった。二人は、それを本当に一大事だと受け取った。
「行くか?」
「もちろん!だって、私の唯一の友達だもん!」
その言葉にシャンクスは顔を綻ばせベンに目配せした。ベンは了承したと腰を浮かせた。
「待って。いいよ、シャンクス。私、ちょっくら行ってくるから」
「お前一人で行かせるわけにはいかない」
「そうだぜ?ナナ。お前は風来のように戦えない」
シャンクスの言葉に賛同するようにベンが言う。でも、ナナは首を振った。
「ミッチー連れて行って良い?」
男二人は顔を見合わせ、溜息を吐いた。ミッチーの名を出されたら、まぁ、それならと言わざるおえない。ミッチーの能力ならば船いらずだ。
「今、四皇が近付くのは良くない。私たち迷い子のためにそんな危険は犯せられない」
「……あぁ、くそ!分かった分かった!行って来い、ミッチーでもヨシリンでも連れてけ!ただし、無事に帰ること!危険なことしないこと!変態行為は控えること!」
「ちょっ、最後のなんだし!」
戯れる大頭とナナを置いてベンは事の次第をミッチーにつたえるべく部屋を出た。
ミッチーはベンの予想を面白いぐらい壊さず、嫌な顔をした。
「は!?何で俺がそんな面倒くさいことしなきゃいけないんすか!」
「ナナと仲良いだろ?」
「良くないっす!」
「まぁ、そう言うなよ。お前の能力しか方法はねぇんだ」
「ちぇっ、何だし」
唇を尖らし拗ねたミッチーは満更でもない顔をしていた。ベンはそんな素直じゃないミッチーの頭をわしわしと撫でた。
「おい!おばさん!」
「だーれーがー、くそババァだ!こら!」
「そこまで言ってねぇ!」
まるで兄弟のように微笑ましい光景。なのに何故か一人、眉間に皺を寄せる男。
「なぁ、ベン」
「何だ?」
「ちょっと、近くねぇか?」
「はぁ、あんたって人は……」
ナナに無駄に防衛線を引く、情けない我が大お頭にベンの溜息は尽きない。
「うるせぇ!行くぞ!」
「え、もう?」
「んだよ、行かねぇのかよ」
「え、行くけど……」
ちらりと視線をシャンクスに送るナナ。何を迷っているのだとベンとシャンクスは首を傾げる。
「ちっ、親友の一大事なんだろ!?すぐ行かなくてどうすんだよ!」
「あ……うん、行く」
そうだ、早く行って、早く会って……。
「すぐ行く。早く、早く……っ!」
ナナがミッチーの腕を掴んだ瞬間、光り、そして白が消えた後そこに二人の姿はなかった。
早く、早く、早く、一発殴って目を覚まさせなきゃ。[ 302/350 ][*prev] [next#]
[目次]
[栞]