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アイは自分を責めた。あの時の軽薄過ぎる自分の行動を。彼女が水晶に触れてしまったのは不可抗力だった。アイが考えなしに触れようと伸ばした手を彼女が払った時、彼女の手がそれに触れてしまったのだ。
「First name」
「……ッ」
白ひげの豪快な笑い声は聞こえない。眉間に皺を刻み、神妙な顔付きでマルコの背に隠れている彼女を見つめていた。
「まるで、あの頃のようだな」
「すまねぇ、親父。俺が付いておきながら」
「まったくだ!」
項垂れたマルコに追い打ちを掛けたのはサッチだった。珍しく怒りが収まらないと体で表現している。
「お前、アイにばかり気を取られてたんじゃねぇか?俺、前にも言ったよな。自分が白ひげ海賊団の一番隊長だっていうことを忘れるなって。自分が背負っている肩書の重さを自覚しろって。なのに!」
「サッチ、そのへんにしてやれ」
「でも、親父!」
「First nameが怯えてるぜ?」
「……ッ」
興奮するサッチを白ひげが諌める。アイは彼女から目が離せなかった。弱り切った彼女を見て何だか裏切られた気分になった。同時に鼻で笑いそうになった。
なんだ、自分だって弱くて何もできない女だったんじゃん。
「記憶は戻るのか?」
イゾウが言った言葉にマルコは分からないと首を横に振る。
「今、洞窟内に何か手掛かりがないか調べさせてるよい」
「そうか。しばらくは嵐が続く、どっちにしろ留まるしかねぇか」
煙管を咥え窓を見上げたイゾウにならい、皆外を眺める。
雨風が強く叩きつけられていた。それが何故だか余計に皆の不安を駆り立てたのだった。
アイの自責の念は、いつの間にか感化されてしまっていた。[ 301/350 ][*prev] [next#]
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