19
私が来た時、彼女は確かに私と同じ匂いがした。でも、彼女と初めて視線を交えた時、あぁ、私は彼女に嫌われてる。瞬時に察した。
私と彼女は同じ存在。自分と同じ存在が突然現れたら誰だって嫌悪するだろう。私だって焦ったに違いない。でも、そう思う私の考えこそ浅はかだったのだろう。彼女にとって、この世界が何か、この船が何か、そんなこと彼女じゃない私が理解できるはずもないのだから。驕りがすぎたらしい。
彼女は船を捨てた。逃げた。言いようは様々だ。だけど、私は……。
「おい、大丈夫かい?」
「ん、大丈夫」
「離れるなよい」
あぁ、きっとこういうのが彼女の何かに触れてしまうのだろう。
相変わらず緊張感のない後ろの彼らに耳を澄ませながら大好きな彼の背中を見つめた。
様々な困難をくぐり抜け、辿り着いた先には神秘的な泉が広がっていた。まさにファンタジーだ。泉を覗き込めば水晶が輝いてる。思わず泉に手を伸ばせば腕を掴まれ止められた。マルコだ。首を横に振るマルコに渋々アイは手を引いた。
「おーい!こっちに何かあるぞー!」
クルーの高揚感溢れる呼び掛けにアイとマルコは一瞬顔を見合わせ、そしてクルーたちの元へと駆け寄った。
「おぉ、水晶だー」
それは、魔女が持ってるような満月のように丸い水晶。覗き込むように顔を近付ければ、自分の顔が面白いぐらい歪んで映った。
「これが、どうしたんですか?」
水晶を指差しながら浮かれているオジサンクルーに尋ねれば満面の笑みで「さぁ!?」と返された。つまりは、よくわからないということだ。アイは苦笑して、もう一度水晶を覗いた。[ 299/350 ][*prev] [next#]
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