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「しつこい!」という彼女の怒りと共に巨大ムカデは空を舞った。もっと早くそうして欲しかったとアイは思いながらもグロテスクに刻まれなかっただけ良かったとホッと息を吐いたのだった。彼女なら躊躇いなく微塵切りにするだろう。そんなのを目にした日には一生悪夢に魘されるに違いない。
「あーあ、はぐれちまったな」
イエローの大して慌ててない言葉に私は今の現状を把握した。巨大ムカデから逃げるのに必死でクルーたちと離れ離れになってしまったらしい。つまりは……迷子。
「まぁ、僕たち団体行動苦手だし良いんじゃない?僕たちは僕たちでお宝探そうよ」
「お前、見つけたら自分の物だ的な魂胆だろ」
「あはっ、ばれた?」
恐ろしい子!
グリーンは見た目天使なのに中身が悪魔だ。イエローが苦笑しながらも「さて、どうすっかな」と緑で遮られた空を仰いだ。
「泉だろ?」
「え、山でしょ?」
「洞窟じゃなかったかなー?」
「山にある洞窟の奥に泉があるんだろ」
「あー、なるほど」
適当なことを口々に言う三人をレッドが正しい道に修正した。口を揃えて納得する三人に、本当にレッドがいて良かったと安堵したアイだった。
「First name、ちょっと上から見てこいよ」
「ういーっす」
レッドが空をを指差せば彼女の体が薄くなった。そして、少し強い風が吹き思わず目を瞑って、次に開けた時にはもう彼女は風になっていた。
「あったよー。あっちー」
「あっちじゃ分からねーよ」
アバウトな方向説明に呆れながらもイエローは方向を確認できたようで、すたすたと歩き出す。
「イエローって、お腹ん中にコンパス入ってるんだよ」
「へ?」
真顔で言った彼女の言葉の意味が分からなかった。でも、数時間後、目的地らしい場所に着いて分かった。イエローは、彼女のあっちという言葉の後迷いなく足を進め目的地に到着したのだ。
「お前ら、何やってんだよい!」
「あー、残念。先越されちゃった」
まるで遅刻した生徒を怒るマルコ。一方、本気で独り占めする気だったらしいグリーンが反省の色も見せず唇を尖らしていた。
「ちょっと、マルコ」
「隊長だよい」
「おっと、失礼。マルコ隊長。てかマルコ隊長、アイちゃん甘やかしすぎー」
「お前と一緒にすんなよい」
「無事かい?」と心底心配そうに聞いてきたマルコに「大丈夫だよ」と両手を広げて見せた。まぁ、確かに甘い。でろでろに過保護だ。
「なんだなんだ、皆してー」
「なんだ、First name。前は女扱いすんなって言ってたじゃねーか」
「そうだそうだ。女にされて、弱っちくなったんじゃねぇか?」
「ぐはははっ、言えてらー。女海賊は男ができると落ちぶれるからな!」
「ガキもできたし、引退どきか?」
オジサンクルーたちにからかわれてる彼女の空気が変わった。
「もう、皆さん酷いなー。まぁ、いいや。早くお宝探しましょー」
誰も気付かないの?彼女の変容に。
本当に、誰も、気付かないの?[ 298/350 ][*prev] [next#]
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