12
変わらず私は白ひげ海賊団の元にいるが、ドクターが言ったように表立って戦闘参加は禁止されてしまった。
「あー、暇」
「First nameさん」
「あ、アイちゃん」
「何してるんですか?」
「見てわからない?釣り」
「何でまた、釣りを……」
甲板の縁の上で座りながら竿を垂らしている私に声を掛けてきたのはアイちゃん。縁にしがみつきながら海を覗き込んでいる。
あんまり覗き込んで、海に落ちても私は助けられないからな。
「いやね、今日は隊長たちに挨拶しようと思ってたんだけど、どうやら昨晩の宴で皆潰れちゃってるらしくて。これは、挨拶なんて別にいらねぇやいってことかな?」
「あはは、王道の隊長と御対面てやつですね」
「そうそれ!アイちゃんもやった?一度やったから良いのかな?」
「やりました!イゾウの色気に鼻血でそうでした」
「あぁ、あれはやばいね。襲われなかった?」
「え、大丈夫でしたよ。え?First nameさん、襲われたんですか?」
「懐かしいなー、もう六年も前の話しだよ。長いようで、早かったなー」
アイちゃんの問い掛けもスルーして思い出に浸る。最初は本当に怖くて怖くて、もう怖かったな。最初にあれは酷いよね。私もナナちゃんアイちゃんみたいに船に落とされたかった。まぁ、あれのおかげで今の私があると言っても過言じゃないんだけど。
「相手、教えてくれないですよね?」
「うん」
即答。誰にも言うつもりはない。白ひげにも。ただ、一人、言うなら彼女だ。この海のどこかにいる親友を思う。
「そっちはどうよ?」
「私、ですか?」
「ん」
「私、この世界に来た最初の日First nameさんに言われたこと覚えてますよ」
「ん?」
え、私なんか言ったっけ?確かに苛ついてて良くないことばかり言ったような記憶はあるけれど。
「マルコ落ちかよって」
あ、言ったね。そんなこと。言った言った。
「で、どうなった?」
「その通りになりました」
「やっぱり!」
何故か肩を落として言う彼女とは反対に私はにんまりと笑顔を浮かべた。
「そうかそうか、マルコとかー。君もオヤジ好きだな?さては」
「違いますよー。前にも言ったじゃないですか、私はサンジくん一筋だって!」
「お、浮気発言。マルコにちくったろ」
「ちょっ、やめてください!絶対、やめてください!あの人ねちっこいんです!」
「あはは!ねちっこい!うける!こんなこと言われてますよ、マルコ隊長」
「え」
アイちゃんの首が歪な音をたてながら後ろへと回る。そこにいるのは、声を抑えて腹を抱えながら爆笑中のサッチと、額に血管の浮かぶマルコだった。
「おはようございます。マルコ隊長に、サッチ隊長」
「おう。ちょっと来い、アイ」
「いーやー、First nameさんひどすぎるー」
「御愁傷様でーす」
引き摺られて行くアイちゃんをサッチ隊長と一緒に手を振って見送った。[ 292/350 ][*prev] [next#]
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