09
あの白ひげが瞠目し、口を閉じた。そして間を引き裂くような瓶の割る音が海に響き渡った。
「誰だ?」
瓶を割ったのはマルコだ。床に叩きつけたのだろう。
「First name、相手は誰だ?合意の上か?それとも……」
「マルコ隊長」
「どこのどいつだい!男は何処にいる!何で、お前一人で戻ってきた!?子供ができたと分かって捨てられたのか!?そんな奴、俺が殺してやるよい!」
「マルコ隊長!」
悲しい。切ない。捨てられてなんかない。私たちは愛し合った。それでも、世界が私たちを引き裂いた。
「私は、私は、独りで帰って来たんじゃありません。私は、この子と二人で帰ってきたんです!」
今にも掴みかかってきそうな剣幕さを背負ったマルコに足が竦む。あぁ、覇気だ。気持ち悪い。覇気は嫌い。
「まぁまぁ、マルコ隊長。落ち着いて下さい」
「隊長の気持ちも分かるっすけど、ここは冷静に、ね」
「First nameちゃん、大丈夫?」
親友三人は変わってない。一年前と変わらず私を庇ってくれる。私の味方になってくれる。
「あ、う、私、私、ここにいちゃ駄目?」
「大丈夫、大丈夫だよ、First nameちゃん。First nameちゃんを追い出したりなんかするもんか。ね、親父」
「グララララ、当たり前ぇだ。マルコ、てめぇも覇気しまいやがれ」
「だってよい!親父!大事な妹が孕ませられた上に一人で帰ってきたんだい!誰だって……」
「マルコ」
「……ッ、わかったよい」
白ひげの威圧的な声にマルコは言葉を飲み込んだ。言いたいことは、まだまだあるらしい。
「First name」
「白ひげ」
「俺ら家族は怒らなくて良いんだろ?俺らは安心して見守って良いんだろ?」
「……ッ、はい。この子は愛し合って授かった子です」
「なら、良いいんだ。お前が笑えるならそれで良い」
「うぅ、白ひげ、白ひげはこの子のおじいちゃんになってくれますか?」
「なっ!」
危うく白ひげは持っていた盃を落とすところだった。困ったように頬を掻いた後、恥ずかしそうに、それでいて嬉しそうに「あぁ」と頷いてくれた。
僕くん、良かったね。僕くんにも、家族ができた。[ 289/350 ][*prev] [next#]
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