08
歓声も野次も静まり返った。
「おい、ドクター。何を騒いでる。美味い酒が不味くなるじゃあねぇか」
「親父、すまねぇ。だが、俺はこの船の船医だ。クルーの命にかかわることは、親父の命令でも聞けねぇ」
「命だと?」
ずんずん近付いてくるドクターに、思わず後ずさる。そう言えば、ドクターが戦ったところをみたことがない。でも、きっと、強い。
「First name、何してる?」
「ドクター、弟に手合わせお願いされちゃって、お姉さんとしては応えてあげようかなーって……」
「ふざけるな!」
「……ッ」
「お前、自分の身体を分かってないのか?」
先ほどまでのどんちゃん騒ぎが嘘のようだ。今はまるで通夜のようだ。
「ドクター、どういうことだい?」
マルコが前に出た。
「マルコ隊長……」
ドクターは、真っ直ぐ私を見た。
「First nameは、どこか悪いのかい?」
「……First name、自分の口から言え。遅かれ早かれ皆に言わなきゃならねぇ。それなりの対応も必要になる」
「対応って……私、戦っちゃいけないの?私、私、海賊なのに?」
ドクターは、私に戦うなと言ってる。この世界で強さを求めた私に戦うなと。
「First name」
「白ひげ、私、私、海賊じゃなかったら何になるの?また……迷子?」
帰る場所があったと喜んだ束の間、私の居場所はなくなるの?彼はいない、ここにもいれない、私は、僕くんと二人ぼっち。
「白ひげ、私、私のお腹には……」
愛するあの人との子供がいます。[ 288/350 ][*prev] [next#]
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