07
あぁ、なんだこれは。
喪失感?そんなもの最初から何も持ち合わせていないはずじゃあなかったか?
「残念だ」
残念だ。ここにも俺が求めていたものはなかったか。
四年間パートナーとして働いてきたニコ・ロビンを殺すのに躊躇いなど浮かばない。ただ、あいつは何を想うだろうか。
「俺はお前に怒りなど感じない。何故だかわかるかニコ・ロビン」
あいつはニコ・ロビンを慕っていた。死んだと、俺が殺したと言ったら何を想うだろう。
「ふふ、馬鹿ね。四年も手を組んでいたのよ?あなたがこういう行動にでることくらい分かっていたわ」
「……水か」
あいつはきっと、悲しそうに笑いながら「そう」と、ただ瞼を閉じるだろう。
「……!」
「全てを許そう、ニコ・ロビン」
鉤爪が真っ赤な血を吸う。そうだ、忘れるな。俺は……。
「最初から誰一人信用しちゃ……いねぇからさ」
倒れるニコ・ロビンをただ見下ろした。何の感情も浮かばない。なのに、あいつの笑う顔ばかりが視界を邪魔しやがる。
「かはっ……」
「……まだ息があったか」
まとわりつく髪を掻き上げた。
「……嘘ね」
「何がだ」
コブラは壁に背を預け、二人の会話に耳を澄ましていた。
「そうね、あなたは誰一人信用なんてしてなかったわ」
「何が言いてぇ」
「彼女が、あなたの前に現れるまでわ」
「……」
「今のあなたは、もう人を信用しているわ。それだけじゃない、あなたは……」
崩れゆく聖殿の音にニコ・ロビンの最後の言葉は掻き消された。
「奴も人だったのか」
コブラは瞼を閉じた。我らにとって最大の敵である奴も、誰かの唯一なのだろう。
人生とはやりきれないものだ。
誰かの嘆きの上で誰かの歓びがある。それは決して変えられぬ真実だ。[ 277/350 ][*prev] [next#]
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