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あはは、完璧私も悪者だ。ルフィたちの責める視線が私に突き刺さる。
「あなた、クロコダイルの仲間だったのね」
「仲間だなんて、違うよ。私の仲間は白ひげのクルーだもん」
「だったら何で……」
ナミの怪訝な瞳を真っ直ぐ見つめ返していれば、頭を鷲掴みにされた。
「う、ちょっ、痛い痛い痛い。脳味噌零れる」
「お前、こいつらと知り合いだったのか?」
「弟の弟、とその仲間たち」
ルフィを指さし言えば、納得いかないけど仕方ねぇなって感じで解放された。乱れた髪を直せば、不意に何かが倒れた音がした。
「おいおい、どうした。何をする気だミス・ウェンズデー」
床を這いずるビビを見て呆れたように言った彼は私の手を取り、そこへ近付いた。私は繋がれた手を見て、彼を見上げた。
あぁ、良かった。彼に私は見えてるんだ。安堵して私はその手を握り返した。
「止めるのよ!まだ間に合う!ここから東へまっすぐアルバーナに向かえば、反乱軍よりも早くアルバーナは回りこめば、まだ反乱軍を止められる可能性はある!」
必死に訴えるその姿から私は顔を逸らした。あんな風に私も必死になれば止められたのかな?守れたのかな?
過ぎたことを悔やむなんて馬鹿なことしてたら、またクロコダイルさんに嗤われるかな。
「あ」
離された手に顔を挙げれば彼は楽しそうに鍵を見せびらかしていた。何だか手か寂しくて、数回握ったり閉じたりした後、彼のコートを握り締めた。
「鍵!?この檻の鍵だな!?よこせこの野郎!」
馬鹿だなルフィ、クロコダイルさんがそんな親切なことするわけないじゃん。
「あ」
床の開いた穴からあっという間に落ちていく鍵。覗き込んでも小さくなったその姿を捉えることはできず、床にぶつかっただろう乾いた音だけが微かに聞こえてきた。
「確かに反乱軍と国王軍の激突はまださけられる。奴らの殺し合いが始まるであと八時間ってとこか。時間があるとはいえねぇな。ここからアルバーナへ急いでもそれ以上はかかる。反乱を止めたきゃ今すぐここを出るべきだミス・ウェンズデー。さもなくば、ははっ。何十万人死ぬことか」
何十万人も死ぬことを笑って告げれるような非道な人間を好きになるなんて、私も非道な人間だからなのかな?そういえば、ナナちゃんに物好きだねとは言われたな。
「おい、行くぞ」
「お話終わったんですか?」
「聞いてなかったのか?」
「はい」
あ、馬鹿だなって言ってるなその目は。
「じゃあ、俺たちは一足先に失礼する。なお、この部屋はこれから一時間かけて自動的に消滅する。俺がバロックワークス社社長として使ってきたこの秘密地下はもう不要の部屋。じき水が入り込みここはレインベースの湖に沈む」
あぁ、なくなっちゃうんだ。
「罪なき百万人の国民か、未来のねぇたった四人の小物海賊団か。救えて一つ、いずれま可能性は低いがな。賭け金はお前の気持ちさミス・ウェンズデー。ギャンブルは好きかね?クッハハハハ!」
私は高い天井を見上げた。思い出に浸るなんて、そんな女々しいことクロコダイルさんはしないよね。いらないものは切り捨てる。ううん、いらないものは最初から持ってなんかないか。最初から捨てるつもりなんだもんね。
「お前がやったのか……ッ!」
あ、ルフィが怒ってる。そりゃあ怒るよね。
「殺してやる……ッ」
そうだよね、ビビ。殺してやりたいほど、憎いよね。でもね、私はそんな彼が愛おしいんだよ。
「酷い人」
「そんな俺を好きなお前も酷い奴だろ?」
言い返せない。だって本当だもん。私は彼らの味方はしない。だって、所詮物語は主人公が勝つんだもん。悪は悪、なんでしょ?[ 269/350 ][*prev] [next#]
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