18
七時を回った。ユートピア作戦開始。ユートピア、それは理想郷。ねぇ、クロコダイルさん。あなたはどんな理想郷を求めているの?ねぇ、そこに私はいる?
理想は所詮理想。誰?そんな可哀想なことを言ったのは。可哀想。きっと、あなたには夢も希望もなかったんだね。
彼の高笑いが部屋に響いた。夢を、理想を求めた男の高笑いが。人を踏み倒し、その上に立ち、高みを目指す。ねぇ、どっちが可哀想な人なんだろう。
「どうだ、気にいったかミス・ウェンズデー。君も中程に参加していた作戦が今花開いた。耳を澄ませばアラバスタの唸り声が聞こえてきそうだ」
あぁ、今まさに命が消えていっているんだろう。命の消える音なんて私に聞こえない。良かった、聴こえなくて。
「おい、風来。何故お前がここにいる」
「やぁやぁ、スモーカーさん。相変わらず素敵な胸筋剥き出しですね」
「ふざけてんじゃねぇ。……船を追放されたっていう噂はどうやら嘘じゃなかったみたいだな」
「は?」
「それでクロコダイルの元に来たのか。四皇のクルーも堕ちたな」
握り締めた拳を檻に叩きつけた。
「黙れ、腐れ正義が。お前らがいったい私に何をしてくれた?お前らが私を助けてくれたか?あの時、私は!」
「……何の事だ?」
真っ暗な海の底。もがいても、もがいても、手を伸ばしても、私の手は水を切るだけだった。
クロコダイルさんの繰り返される「守るんだ」という言葉が私の胸まで抉った。
守るなんて口にする奴は何も守れない。
「泣かせるじゃねぇか。国を想う気持ちが国を滅ぼすんだ」
「外道って言葉はこいつにピッタリだな」
ゾロが吐いた言葉なんてクロコダイルさんには届かない。長年、この日のために費やした時間を思い返すのに、浸っている彼には。
「何故、俺がここまでしてこの国を手に入れたいかわかるか?ミス・ウェンズデー」
「あんたの腐った頭の中なんてわかるもんか!」
「はっ、口の悪い王女だな」
楽しそうに嗤う彼にちょっとムッとする。彼の瞳に映るビビを消したくなる。
あぁ、私、嫉妬してる。
傍観していたのに、嫉妬している自分に自嘲する。滑稽でしょ?私。蚊帳の外なのに。誰も私なんて見てないのに。私、私。[ 268/350 ][*prev] [next#]
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