08
ナミの部屋を借りて診察してもらうことになった。チョッパー以外は入って来ないように釘をさして。ナミの部屋は想像通り本が沢山あった。どれもこれも難しそうなものばかりで、私には読めなさそうだ。
「お前、どこが悪いんだ?見たところ目立った怪我や病気もしてなさそうだし」
「今話す。でも、その前に……風盾」
私は能力で空間を作った。
「うわっ、なんだこれ!?」
「ごめんね。誰にも知られたくないから」
さぁ、ほら言わなきゃ。ちゃんと診てもらわないと。言え、言え、言え。
「私、赤ちゃんいるかもーなんて?」
とうとう口にしてしまった。冗談めかしに言ってみたものの声は動揺を表すように震えていた。
「あ、赤ちゃん!?」
ぎょっとして後ずさったチョッパー。
「診てくれるかな?」
「も、もちろんだ。ただ……」
口ごもるチョッパーの次の言葉を待つ。
「ただ、おれ知識はあるけど、実際に見たことそんなになくて……」
「そっか……」
「専門の機械とかもないし……」
「……」
あぁ、そうだよね。この世界に前の世界みたいな機械なんてあるわけないし。
「で、でも大丈夫だぞ!」
「え」
「ちゃんと診るからな!」
チョッパーの必死な顔に何だか気が緩んでしまった。当人よりも必死なドクターってどうよ?
「あはは、よろしくお願いします」
そして診察後。
「うーん、そうだな。十?いや十二週?悪阻はまだあるんだよな?」
「うーん、だいぶ良くなってきたけど。一時期は、ほとんど何も食べれなくて」
「だ、駄目だぞ!何も食べないのは!」
「あはは、分かってるって」
本当かよって目で見られてしまった。まだお腹は目立っていないし、妊婦初期だと心拍音も聴き取れないそうだ。確信はできないが、恐らくというところだろう。
「ありがとう、Dr.チョッパー」
「そ、そんな風に言われたって嬉しくねぇぞこのやろー」
チョッパー可愛ゆす。
何だか気持ちが軽くなった。やっぱり医者に診てもらうと安心するな。
「First name」
「ん?」
「おめでとう」
バンダナを締め直していたらチョッパーがハニカミながら言った。
おめでとう?あぁ、そっか、普通だったらお祝い事なんだ。普通だったら……。
「あり、がとう」
込み上げてきた何か。せっかく縛り直したバンダナを下げて顔を隠した。ベットの上で背中を丸めて嗚咽を堪える私の背中を、ちょっと硬いチョッパーの蹄が優しく撫でてくれた。
おめでとうなんて誰かに言われるなんて、思ってもみなかった。[ 258/350 ][*prev] [next#]
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