01
ほんの少しの好奇心だった。好奇心は身を滅ぼす。誰が言ってたんだっけ。
カジノのお手伝いをしていたら珍しくロビンに仕事を頼まれた。真っ白で何の変哲もないただの封筒。それが余計に私の好奇心をくすぐった。
あぁ、見なきゃ良かった。すぐに後悔の波に襲われる。誰もいない廊下で蹲まってしまった。震える体を抑えたくて力が入れば手紙に皺が残る。
良かった。涙の跡は付かなくて。頬の涙を手の甲で拭い、スパイダーズカフェに向かって風になった。
明日の午後八時。オフィサーエージェント、スパイダーズカフェに集合。
あぁ、始まった。
「あら、やっぱり風ちゃんね」
「え?」
「あなたが来ると、この辺の風が騒がしくなるのよ」
「へぇ」
気にしたこともなかった。天井を見上げて、そっと目を閉じてみる。あ、本当だ。歓迎しているのか、はたまた……。
「いつもので良くって?」
「うん」
あぁ、ここでこの紅茶を飲むのも最後か。カップに注がれた赤茶色の水面を見つめる。立ち昇る湯気に混じる香りがほんのり甘い。
「うん、良い香り」
自然と溢れた笑みをポーラは優しい眼差しで見つめていた。
「ご馳走様でした。はい、これ」
「あら、今日はおかわりはいらなくて?」
「うん、また今度にする」
手紙を渡して立ち上がる。顔が合わせられない。今度なんてないのを知っているから。もう、ここには来れないから。本当なら、もっとここにいて名残り惜しみたいけど、私はもっといたい場所がある。
「ごめんね、ポーラ」
「風ちゃん?」
本当の名前も言えなくて。
「ポーラの紅茶が一番。ばいばい」
ばいばい、私の幸せだった日常。[ 251/350 ][*prev] [next#]
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