07
どこからか子供の泣き声が聞こえてきた。真っ白な世界は果て無く続く地平線のようで360度辺りを見渡しても子供の姿を捉えることはできなかった。でも体は勝手に動きだした。まるで、どこで子供が泣いているのか知っているかのように。
暫く変わらない景色のなかを歩いていると、いつの間にか目の前に黒い髪をした幼い子どもが蹲りながら鼻をすすっていた。私は、一瞬何て声を掛けるべきか戸惑い、当たり障りない言葉を選んだ。
「どうしたの?」
訊ねれば、ぴたりと泣き声が止んだ。そして、その子どもはゆっくりと振り返り私に言葉を放った。
「ち、違うの……」
込み上げてくる恐怖に後ずさる。
「お願い!許して!違うの!私は拒んだ!違うの!違うの!違うの!!」
私は逃げた。ひたすら逃げて逃げて、どこまでも続く地平線を駆けた。
「お前のせいで、僕は汚れた」
真っ白な世界は真っ暗な世界に変わり、沼のような地に足を取られ、もがき、もがき、伸ばした手はやっぱり届くこと無く沈んだ。
視界が歪んでいた。頭が何だか重い。無意識のうちに彼の姿を探して視線を動かせば、一点で止まった。探していた人物は目の前にいたんだ。
「クロコダイル、さん?」
部屋に残る生臭い匂いが鼻を掠めた。そして鮮明に記憶が駆け抜けた。
「あ、あ、あぁああああ!」
伸ばされた手を拒んだ。嫌だったんじゃない。怖かった。穢い私に触れられるのが怖かった。
穢い、穢い、穢い、穢い!
全身の皮を剥いでしまいたくなった。[ 247/350 ][*prev] [next#]
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