02
空に浮かんでいると気分が紛れて良い。どんなに高く飛んでも、そのまた上に空がある。地上で見る空も、空から見る空もあまり変わらないのかもしれない。
でも、喧騒も雑音もない静かな空で見上げる空が私は好きだ。
不意に砂の香りがした。どうやら彼が呼んでいるらしい。戻らなければ。
ふわりと地に降り立てば、何だか妙な感じがした。地を蹴ってみる。砂埃が舞った。ただそれだけ。ただそれだけなのに空を彷徨う砂が風に飛ばされていくのが切なく感じた。どこまで行くのか見ていたいと思った。だけどあまりに小さなそれをずっと見続けているのは難しかった。
早く彼の元に行かなければ。
私は振り返ることなく風になった。
「遅ぇ」
「あはは、すみません」
第一声は相変わらず厳しい。思わず引き笑いするとクロコダイルさんの背後に漂うバナナワニの鋭い瞳と目が合った。あわわと顔を引き締める。
「クロコダイルさん、何の御用です?」
「用がなきゃ呼んじゃいけねぇか?」
「え、いや、ぜんぜんそんなことはないんですけど」
「フンッ」
「あ、本当ですよ!用なんかなくても全然……」
「何も言ってねぇよ」
「う……」
慌てたり落ち込んだり大変だ。クロコダイルさんは私の心を乱しすぎると思います。
「仕事だ」
何だ結局それじゃないか。
「はい、何でしょう」
後ろ手を組んで、ちょっと拗ねたように唇を尖らせれば手招きされた。彼の真意を探ろうと、じっと目を見つめてみたが無理だった。それどころか何だか恥ずかしくなってしまい自分から逸らしてしまう始末。敵わない。
「変な顔してんじゃねぇよ」
「む、元からですけど?」
顎を掴まれ強引に顔を合わせられる。ちょっ、まじでやめてください。恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!
「んっ」
「真っ直ぐ帰って来いよ」
「……ッ、はい」
不意打ちの口付けに顔が燃え上がる。私は唇を手で隠し、逃げるように執務室を後にした。どさくさに紛れて渡された指令書を危うく握り潰してしまうところだった。[ 242/350 ][*prev] [next#]
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