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電伝虫の向こう側から聞こえて来る声が懐かしいと思った。実際に聞いたことも会ったこともないのに、懐かしいと思った。憶えのある声優さんの声に電話の相手が誰だか分かってしまったのだ。血の気が引いた。
「風使いさん、顔色が悪いわ」
「え」
無意識に頬に触れる。動揺がばれた?彼の方を見れば私を見て眉間に皺を寄せていた。思わず視線を逸らしてしまう。
「生きてやがった、だと?」
今朝、飾ったばかりの花が彼の右手によって枯れていく。それはまるで……。
「まぁいい。とにかく貴様はそこから一直線にアラバスタを目指せ」
ぎゅっと拳を握り締めた。隣で彼女が私を観察しているとも知らずに。
「ミス・オールサンデー」
「何?」
「Mr.2をリトルガーデンに向かわせろ」
いつの間にか間近に迫ったバナナワニに、ぎょっとする。固まっているとロビンは手慣れたようにバナナワニを撫でた。ロビンすっげえ。
「アラバスタ、リトルガーデン間の航路でMr.3を始末しろ」
「ずいぶん乱暴なのね。サー・Mr.0クロコダイル」
「人手なら足りている。俺に口答えをするのか?」
「いいえ」
ロビンは立ち上がり階段の方へと向かって歩きだす。バナナワニも一緒に着いて行くようで、ほっとした。
「従います。すぐに手配を」
「行ってらっしゃーい」
ロビンの背中に向かって手を振れば、背中越しに手を振ってくれた。
「First name」
「はい?」
「大丈夫か?」
今まさに冷酷な司令を出したばかりだと言うのに彼は私に優しい。変だけど、それを私は嬉しいと思った。私も冷酷か……。[ 240/350 ][*prev] [next#]
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