18
この世界に妊娠反応検査なんて便利なものはない。でも、もう認めるしかないのだろうか。これはよく聞く悪阻というものに違いない。
思い当たる節は幾つもある。だけど認めたくはない。何が悔しいのか分からないが、無性に悔しくて唇を噛み締めた。
「風使いさん?」
はっとして振り返れば、そこにはロビンが佇んでいた。誤魔化すように蛇口を捻り水を出す。
「どうしたんですか?ミス・オールサンデー。今、紅茶の準備してますよ」
「あなた……」
「言わないで!」
聞きたくない。人の口からその言葉を聞きたくない。遮るように言った声は自分が思ってた以上に悲痛な叫び声になった。
「あはは、ごめんなさい。すぐ準備しますから……」
「ボスは、このことを?」
「知りませんよ」
「……」
ここに連れてこられた時とは違い、随分手慣れた手付きで紅茶を淹れられるようになった。紅茶の種類だって覚えた。身に付いた動作は心が動揺していようが順番通りに動いていく。
「言わないで下さい。……たとえこの先、あなたが彼に裏切られようとも、あなたが彼を裏切ようとも、絶対に言わないで下さい。私は、あなたの夢の邪魔をしません。だから、ロビン。あなも私の隠し事を口にしないで」
「……ずるいわね」
「すみません」
「一つ、聞いて良いかしら?」
「はい」
「あなたは、いえ、迷い子のあなた達はこの世界で何をしようとしているの?」
何を?そんなの知らないよ。分からないよ。別に私とナナちゃんの目的なんて一緒じゃないし。まだ、私は迷っているし。何をすれば良いのかも分からない。何かをして何かが変わるのかも分からない。
「……ごめんなさい。それは、私にも分かりません」
ロビンは、それ以上何も聞いてはこなかった。[ 238/350 ][*prev] [next#]
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