17
正しい段階を踏まずに迎えるこの日が、こんなにも絶望的な日だとは思いもしなかった。
この世界に来て私は歳をとった。成人もした。そうだよ、こんなことになることだって想像できたじゃないか。
相手が漫画の世界の人間だからだなんて思ってた?そんな、五年以上もこの世界で生きていて、もうこの世界の人間になった気でいて、まだ心のどこかで否定的な感情があったってこと?
そんな馬鹿なことがある?
あはは、笑えない。笑えないよ。
水槽の中で優雅に泳ぐバナナワニを視線で追いながら、瞳から涙を流している。
「どうしたら良いのかな」
誰も答えてはくれないのに、私は問いかけた。
「ねぇ、私、どうしたら良いの……ッ」
声を圧し殺して泣いた。どうか、朝がきたら何もなかったことに。そう願って目を閉じたけど、一睡もできぬまま砂漠の夜が明けた。
水槽に注ぐ朝日は眩しい。なのに、私の目の前は真っ暗だ。そっとお腹に手を添えた。
「……」
何も感じない。何も感じないよ?私の勘違いだったのかもしれない。気が動転していたんだ。だって、何も感じないもん。何も、変わらないもん。
気のせいだった。そう思い込んだら眠気の波が襲ってきた。あぁ、良かった。
「い……おい、起きろ。いつまで寝てんだお前は」
「ん……クロコダイル、さん?」
「寝過ぎだ」
怠い体を起き上がらせれば、ふらりと体が揺れた。あぁ、まだ寝足りない。
「まだ具合悪いのか?」
「ん、大丈夫ですよ」
心配させちゃいけない。無理矢理笑顔を作れば疑わし気な顔をされた。
どきりとする。一瞬忘れていたことを思い出し、さらに嫌な感じになる。これだけは知られてはいけない。
「あはは、お腹空いちゃいました」
「……たく、お前は寝るか食うかしか頭にねぇのか」
「むぅ、そんなことないっすよー」
何事もなく、その日が来るまで過ごしたい。そんな願いは叶わないのだろうか。[ 237/350 ][*prev] [next#]
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