13
私は一応海賊だ。てか賞金だってかかってる結構大物の海賊だ。その私だって顔をしかめてしまう状況ってなんなんだろう。
昼間っから胸糞悪いものを見た。昔々の私だったら素通りしたに違いない。今は無駄に力を持ってしまっているからなのだろうか。勝手に向かい始める足に、事なかれ主義なはずなんだけどなと首を傾げたのだった。
「あ?何だお前」
胸糞悪い元凶さんが私に気付いたようだ。
「DVは法律で禁止されてますよ。おじさん」
「何言ってんだてめぇ」
男は女の掴んでいた胸倉から手を離し、私の方へと足先を向けた。
おかしいな。巻き込まれヒロインはナナちゃんのはずなんだけどな。
「おじさん、その女の人とどんな関係?」
「関係も何も俺の店の女を俺がどうしようと俺の勝手だ」
どうやらドメスティックバイオレンスではなかったらしい。賑やかな表道りから一歩横道に入ればそこはもう裏の世界。海賊までの悪党はいなくても、海賊よりもたちの悪い輩がうようよいる。どこの国でも世界でもそれは一緒だ。
「駄目ですよ。女は大切に扱わないと。デリケートなんですから」
「あ?」
きっと胡散臭い風俗の店かなんかなのだろう。国政は今、反乱軍のことで頭一杯だろうし、ここまで手が回らないようだ。
「私、あなたみたいな人嫌い」
「は?」
「だから……」
さようなら。
風が吹いた。生暖かくて、まとわり付くような嫌な風が。
こんな目を向けられたのは久しぶりだ。
「こ、来ないで!」
「何もしないよ?」
助けたはずの女の人が、さっきよりも恐怖で引きつった顔をしている。ひどいなぁ、助けたのに。
「あ、どうせなら、店の子も解放してあげようかな」
笑っちゃうぐらい怯えている女を放置して、裏口から店に入れば予想通りチンピラみたいな奴らが、無謀にも向かってきた。
「あはは……、私を誰だと思ってるの?」
私の顔から笑みが消えた。満ちていた波が引く。引いた波は勢いを増し、襲いかかる。全てを呑み込むかのように。
「黒渦」
闇色の風に呑み込まれた後は、渦巻き風に刻まれて、真っ赤な血飛沫が舞う。
「あーあ、ぐちょぐちょ。だからこの技は好きじゃないんだよね」
べつに殺さなくたって良かった。でも、べつに生かす理由もなかっただけ。今更、遅いもん。
久しぶりにちょっと海賊っぽいことしたのにスッキリしなかった。[ 233/350 ][*prev] [next#]
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