12
時間がない。時間がないの。私は焦った。焦って、焦って失敗した。
「お前、最近何考えてやがる?」
「え?」
何のことだなんて誤魔化せる雰囲気ではなかった。全く集中なんてしていなかった本が手から滑り落ちる。
「First name」
「クロコダイルさん……」
あぁ、どうしよう。どうしようだなんて考えても仕方ないのに。もう、どうしようもないのに。あなたとの時間は無情に削られていくから。
彼のワイシャツをそっと握り締める。行かないでと気持ちを込めて。砂になって、さらさら指の間から逃げてしまうようなあなたを私は繋ぎ止めておく方法を知らない。いっその事、一緒に風に乗って飛んで行ってしまえたら良いのに。
「砂の香りがする」
「……そうか」
質問の答えを言わない私に、彼はそれ以上何も聞いてはこなかった。もしかしたら、彼も何か勘付いているのかもしれない。肩を抱き寄せられれば、身を委ねるように彼の胸にもたれた。
葉巻の香りが強いはずなのに、砂の香りが消えない。ずっと、この香りが消えなければ良いのに。
「あ、そういえば私って結局、バロックワークスの社員なの?」
「はっ、誰がお前なんかを社員にするかよ」
鼻で笑われた上に、酷い言われようだ。こんなに尽くしてきたというのに。
「まぁ、バイトだな」
「ひどっ」
バイトって、高校生かよ。まぁ、仕事内容は、ほぼ使いっ走りだからバイトだわな。
「お前ほど態度のでけえバイトもいねぇだろ」
「むむむ」
何気ない会話が私の気持ちを軽くしてくれる。これから本格的に国取り合戦が始まるというのに、彼は以前よりも傍にいてくれることが多くなった。[ 232/350 ][*prev] [next#]
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