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- ナノ -
08

レインディナーズに着いて真っ直ぐ向かったのは彼女の自室。しかし、そこはもぬけの殻だった。テーブルに置かれた子電伝虫を睨むが電伝虫が彼女の居場所を話してくれるわけがない。舌打ちし、コートを翻して部屋を後にした。

何と無くそこを避けて探して、最後はやはりそこに辿り着いた。最初から、そこにいると思ってはいたが、居なかった時のことを考えてしまい最後に回してしまった。

自室の寝室に入れば、ベッドに微かな膨らみ。何だ寝てやがるじゃねぇか。安堵したとともに何だか馬鹿馬鹿しくなり、女の誘いに乗れば良かったなどと思いながら彼女に近付けば一瞬にして邪な考えは消え去った。


「First name」


泣いたのか?否、泣いているのか。彼女が泣いているとは思いもしなかった。そして何より邪な考えをした自分に腹が立った。


「おかえりなさい」


搾り出したかのような掠れた声が痛々しかった。触れたくなった。抱き締めたくなった。
彼女が今自分を怖れているなんて微塵も思わずに、自分の欲するがままに彼女を掻き抱いた。そして拒絶された。


「てめぇ」


いつだったかも拒絶された。あの時は確かに仕方が無い。だが今何故、拒絶されるのか分からなかった。苛立つ。

必死に謝りだした態度にも苛立つ。俺はお前にとって恐怖でしかないのか?縋り付く彼女を押し離したと同時に、彼女から発せられた言葉に、はっとした。でも、もう遅い。突き離してしまったんだ。


「捨てないで!」


そう叫んだ後、彼女は時間が止まったかのように固まってしまった。ただ、涙だけが止まることを知らずに、ぼろぼろと溢れ出していた。


「出てけなんて言わないで。いらないなんて言わないで」


瞬きもせずに唇を動かして小さく小さく囁かれた言葉。その言葉には覚えがあった。彼女に拒絶された時、自分が彼女に言い放った言葉だ。まさか、あの言葉がこんなにも深く彼女の心に刻まれてしまっているとは。


「First name」

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」


壊れたラジオのように単調に紡がれる言葉に胸を締め付けられた。まさか、自分がこんな気持ちにさせられるなんて。クロコダイルは彼女を抱き寄せ、強く抱き締めた。


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