06
嫌い。
その言葉の思わぬ攻撃力に戸惑いを隠せずにいた。彼女から、そんな言葉が自分に向けられるとは思っていなかった。自惚れていたのか?この俺が?
「クロコダイル様、いかがしました?」
「いや」
レインディナーズを出て向かった先は最近ご無沙汰だった夜の店だ。席に付いたのは、よく知った女だった。嫌でも女の身に纏う香水の匂いを鼻が覚えていやがる。
「ご無沙汰でしたね」
「あぁ」
「他の店の子に乗り換えたのかと思いました」
乗り換えた。まぁ、間違いじゃねぇか。苦笑を漏らし上等なワインをあおれば不意に耳元で囁かれた。俺らしくもない。心の底から不快感が込み上げてきた。
「おい」
「え」
女を押し離せば少し驚いた声を上げた。
「今日は忙しいんですの?」
「いや」
あいつの顔が脳裏に過ぎった。あいつは今どうしているだろうか。まだ拗ねて自室に籠っているだろうか。それとも、白ひげの元に帰ってしまっただろうか。そう思ったら無性に心が騒ついた。
何だって言うんだ。クロコダイルは苛立った。正しく言えば、自分の知らない感情に戸惑ったのだ。クロコダイルは絡み付く女の腕を振り払い、砂となってレインディナーズへと急いた。[ 226/350 ][*prev] [next#]
[目次]
[栞]