02
「遅かったな」
「話が弾みまして」
執務机の上に包みを置けば、何だこれはという目をしたクロコダイルさん。
「お土産のケーキです」
「何しに行ったんだ、てめぇは」
「あはは、ちゃんとお仕事もして来ましたよ」
Mr.1に呼び止められなかったらすっかり忘れるところだったけど。
「お茶の準備しますね」
スパイダーズカフェには仕事で行った。ポーラの最初の反応は間違ってなかったわけだ。
「あら、帰ってたのね」
紅茶の準備をして戻ればロビンが来ていた。
「はい。ミス・オールサンデーも紅茶で良い?」
「ふふっ、残念。これから仕事で出掛けるのよ」
ロビンの言葉に嬉々として包みを開ける手が止まった。ケーキから顔を挙げれば、クロコダイルさんから指令書を受け取っていた。
「ケーキもあるのに?」
「馬鹿野郎、お前みたいにケーキごときで釣られ……」
「いただいて行こうかしら」
「ミス・オールサンデー。俺は至急にと言ったが?」
「ふふふ、冗談よ。ごめんなさい、風使いさん」
「むぅ、ケチ」
「あ?」
私の文句の矛先へクロコダイルさんへと向かった。だってさ、せっかく三人でお茶しようと思ってたのにさ。
「戻ってからいただくわ。だから、そんな顔しないで?」
「はーい」
出て行くロビンの背中に手を振り、遅めのお茶会が始まった。
そして、残された一切れのケーキが食べられることはなかった。
ロビンが仕事と行って出掛けてから三日が過ぎた。冷蔵庫に保管してあるといっても、さすがにどうだろうという期間だ。それでも、捨てられずにいた。冷蔵庫を開ける度に渋い顔をする私に彼は何も言ってはこなかった。
「あの、風さん」
「ん、何かありましたか?副支店長」
「あ、いえ。店の方は滞りなく」
「それはそれは」
じゃあ何の用だろう。首を傾げれば、副支店長は言い辛そうに言葉紡いだ。
「何だか、う、浮かない顔をしていたので」
どうやら心配してくれたようだ。むず痒い。
カジノの皆とは仲良くさせてもらってる。あな厳ついガードマン達も何だかんだいって優しい人たちだ。
ロビンが仕事で失敗するはずがない。どんな仕事かは知らないけど、ここで彼女がいなくなってしまうなんてそんな未来、私は知らないから。
今まさに原作道り進んでなんかいないのに、むしろ私が壊しているのに、都合の悪い時だけ原作に縋るんだ。
矛盾した自分に苛立ちが募る。[ 222/350 ][*prev] [next#]
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