01
いつだかの約束を果たしに来た。カランカランとベルの音を鳴らして扉を開ければ、相変わらず良い感じのしっとりとしたクラシックが流れてきた。
「いらっしゃ……」
ポーラのグラスを拭く手が止まった。窺うように眉間に皺が寄せられる。
「ケーキ、食べに来ましたよ」
「あら、なかなか来て来れないから忘れたのかと思ってたわ」
雰囲気が和らぎ、カウンターに促される。なんとも、この微妙なやり取りが心臓に悪い。
まぁ、仕方がないのだけれたども。
カウンターの端に非常に気になる人物がいたが、オーラが怖すぎて気にしないことにした。
「何にする?」
「ケーキ」
「クスクス、分かったわ。じゃあ、飲み物は?」
「あ」
そっちのことか。食い意地が張ってると思われたに違いない。恥ずかしくなって小さく「紅茶で」と頼んだ。
「うまっ」
甘過ぎない生クリームが、実に私好みの味だった。クロコダイルさんとロビンにもお土産に持って帰ろう。
「仕事は順調かしら?」
「んー、仕事って言っても雑用なんで、特に波はありませんからねぇ」
「そう。それにしては、随分と大袈裟な物をぶら下げてるわね」
ポーラの視線の先は私の武器が映っているようだ。信用されていないのか、何かを疑われているのか。まったく身に覚えがない。
「疑ってるわけじゃなくってよ」
「そうなんですか?」
「えぇ、ただの好奇心」
それはそれでどうかと思うけど。
「雑用でも少しは戦えないと採用されないんですよ」
適当に誤魔化しておいた。ポーラは鋭い方の人間だから。
「ケーキ、持ち帰りできます?」
「もちろん」
他愛ない会話も弾み、いつしか空が赤らみはじめてきていた。
「ぷるぷるぷる、ぷるぷるぷる」
そろそろ帰ろうかと思った時、子電伝虫が鳴いた。
「はい」
「帰って来い」
電話の相手はそれだけ言うとすぐに切れてしまった。子電伝虫に向かって思わず苦笑いを零す。
「それじゃあ、また来ますね」
「えぇ、いつでも歓迎するわ」
綺麗に包まれたお土産を受け取って扉へと向かう。取っ手を掴んだ時、背後に気配を感じた。
「Mr.1!」
ポーラが咎めるように叫ぶが、当の本人は動こうとはしない。また背後に詰め寄られた私も動こうとはしなかった。こんな殺気を浴びせられては動こうにも動けないのだけど。
「何か?」
「何者だ?」
「特にあなたのような人が重要視するような人物ではありませんよ」
不意に首筋に当てられた冷たい感触。お、さっそく能力を拝めちゃったよ。
「Mr.1、やめなさい!その子はボス直属の子よ」
「そんな人間がいるのを俺は聞いたことがない」
厄介な人物に捕まったなと溜息を零した。[ 221/350 ][*prev] [next#]
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