17
息苦しくて目が覚めた。視界に入る天井が、いつもと違うことに戸惑う。
「はぁはぁ、……ッ」
あ、れ?私何してたんだっけ。何やら記憶が飛んでいるみたいで思考を辿り遡る。
周りを見渡せばどうやら私は彼のベッドではなく、執務室のソファーで横になっていたようだ。
テーブルの上には飲み掛けの紅茶。カジノ経営の方のファイルが三冊無造作に置いてあり、その開いたページを理解できているのかどうかは知らないが、私の小電伝虫がぎょろっとした目で眺めていた。
天井を遮るように額の上には置かれた手の甲。もう一方の投げ出された腕を辿っていけば、床に散りばめられた紙があった。
あぁ、思い出した。私は手配書を見ていたんだ。一枚だけ表になっているそこには、弟分とそっくりな太陽みたいな笑顔を浮かべた少年がいた。
「First name?」
「……あ、クロコダイルさん」
彼はいつも音もなく近付いてくる。まぁ、砂になれるからね。でも、心臓に悪いんで、できるなら足音ぐらい発てて欲しい。
「大丈夫か?」
彼は背凭れ越しに私に覆い被さるように顔を近付けた。すると心臓は必然的に跳ね上がるわけで。
「だ、大丈夫ですよ」
「そうか……」
彼の指が汗で額に張り付いていた髪をそっと避ける。視界いっぱいの彼の顔にドキドキしすぎて何だか泣きそうになる。
「髪」
「え」
「切るんじゃねぇぞ」
「……」
「長い方が良い」
薄く笑った彼に私はもう腰砕け状態。体から力が全て抜けていった。
髪を優しく撫でてくれる手が心地好くて心地好くて、幸せな夢だなと思いながら目をゆっくりと閉じた。[ 217/350 ][*prev] [next#]
[目次]
[栞]