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15

涙が出た。悲しいわけじゃない、辛いわけじゃない、苦しいわけじゃない、悔しいわけでもない。漠然と感じる幸福に涙が溢れたんだ。


「First name?」

「……ふっ、……ッ」

「泣いてるのか」


彼の指がそっと目元を拭う。指先からも感じる幸せに余計に涙が溢れた。


「クロコ、ダイルさん……ッ」


私は、ぎゅうっと彼にすがるように彼の胸板に額を寄せた。


「悪い。体、痛むか?」


彼の大きな手が優しく労るように、壊れ物を扱うように、私の腰を撫でた。

彼らしくもない眉を下げた顔に私は首を振った。

私は彼と繋がった。この歳で初めての行為に私は怖くて怖くて怖くて、それを察した彼は震える私の体を優しく優しく丁寧に扱ってくれた。

幸せだった。

まさか、本当に彼と。幸せと同時に恐怖が募った。幸せの涙が恐怖の色に染まる。この先の未来が苦しくて息ができないくらいに。


「ふっ……うぅ……ッ」

「はぁ、どうしたんだよ」

「行かないで、どこにも行かないで!傍にいて下さい!」


ひとしきり泣いた私は再び眠りの中に落ちていった。

まばゆい光は以前見た時よりも強くなっている印象を受けた。


「これで最後だ」

「え」


神は言った。本当にその道を進むのかと。当たり前だ、今更引き返す勇気も理由もない。


「これで最後だ。Family nameFirst name、そなたの信じる道に進むが良い。これはもう、そなたの物語りだ」


まばゆい光は柔らかい色になった。

神様とお別れらしい。お礼を言った方が良いのだろうか。この世界に連れてきてくれたのは神様なんだし。どうしようかと迷っているうちに光は消え、見馴れた天井が視界に入っていた。


「……」


言いそびれてしまった。一応、心の中で「ありがとう」と呟いておいた。伝わったかどうかは知らないが。

彼の腕の中にいる幸せを噛み締めて、来る未来はもうとっくの昔から知っていて、それでも決めたことなのだから、この腕の中にいる時間を大切にしようと思った。


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