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酔っ払いが絡んできた。酔っ払いに絡まれるのは慣れっこだから大丈夫なのだが、いかんせん隣の彼から凄いオーラが出てます。
見えないんですか、分からないんですか、空気を読めこの野郎。
「いやー、First nameちゃん。俺は、First nameちゃんが突然いなくなった日は三日続けて泣いた。そりゃもう泣いて泣いて泣いて呑んだ」
この馬鹿はロクさんだ。いや、もうこんな奴呼び捨てで充分だ。
「俺はな、First nameちゃんに惚れてたんだ。なのによ、なのによ、うぁああああ!男連れて戻って来るとはどうゆうことだ!?当て付けか!俺への当て付けなのか!?」
いや、もう、なんか、好きにして下さい。近寄らないで下さい。猛烈に酒臭いです。
「何だか前より綺麗になっちまってよー。First nameちゃん、巨乳だったんだ」
「ロクさん、それセクハラ」
「髪だって伸びたな。うん、よく似合ってる」
涙ぐんでいるロクさん。めんどくさい。面倒臭すぎる。
「あぁ、First nameちゃん!好きだ!抱かせろ!」
「……ひっ」
突然、抱き着かれ首筋を嗅がれれば体が硬直した。鼻息も口息も気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。
「おい、てめぇ……死にてぇのか?」
あまりの事に硬直していたらクロコダイルさんに救い出された。彼の右腕が私を抱き寄せ、左手の鈎爪がロクさんの首に当てられている。
「す、すみませんでした」
どうやらロクさん、酔いが一気がさめたらしい。
「First name、行くぞ」
「え、あ……」
彼はカウンターに札束を放ると私を抱えたまま呆然とする客達の間を歩き店を後にした。そして店から一歩出た瞬間、砂となった。
背中に感じる柔らかい感触。視界に入るのは見慣れた天井。
あれ、デジャヴ?
また私は彼に押し倒されている状況になっていた。
「く、クロコダイルさん?」
「……お前は」
「……」
「お前は俺が好きなんじゃねぇのかよ」
「え」
「あ?」
「……」
え、え、え?好きです。大好きです。何この恥ずかしい状況。言わなきゃ駄目なの?これは言えと?
戸惑い視線を逸らせば顎を掴まれ強引に視線を合わせられる。顔に熱が集まった。
「……ッ、好き、です」
「はっ……だったら他の野郎に気安く触らせてんじゃねぇよ」
「……ッ」
一気に近付いてきた彼の顔が私の耳元に埋まり、そこで喋られれば恥ずかしすぎて涙が出るし身体中の力は抜けるしで、もう駄目だった。[ 214/350 ][*prev] [next#]
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