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13

酒場の中は私がいた頃と代わり映えのない面々が揃っていた。絶句している客達の間を進み私と彼はカウンターに着いた。


「……First nameちゃん!?」


逸早く我に返ったのはグラスを拭く手の止まってしまっている店長。ではなくFirst nameに密かに想いを寄せていたロクだった。


「店長。おーい、ザック店長ー」

「あ、あ、あぁ、First nameちゃん。いらっしゃい」


やっとカムバックしてきた店長は顔を引きつらせながらも、どうにか笑みを作りクロコダイルさんにちらちらと視線を泳がせていた。

勝手に動き出したかのようにグラスを拭く姿は笑えるが落としてしまいそうなので、取り合えずグラスを置いたらどうかと提案すれば、やっと落ち着いたようだ。


「あー、何にします?」

「クロコダイルさん、ナポリタンとチャーハンどっちが良いですか?」

「どっちでも」

「じゃあ私、チャーハン。クロコダイルさんはナポリタンで。あと店長、一番上等なお酒をクロコダイルさんに」

「あ?」

「何ですか、その目は。大丈夫ですよ。一番上等なお酒の値段も、たかが知れてるぐらいですから」

「はっ、そうかよ」

「ちょっ、First nameちゃん!」


店長が何てことを言うんだとかいう顔をしたけど、だって本当のことだし?クロコダイルさん、お金持ちですから。

私が彼の名前を口にすれば背後にいる客達が「本物だ!」とか口々に言っているが、クロコダイルさんの背中が何かを語っているのか、無闇に寄って来なかった。


「お前、ここで働いてたのか」

「はい、そうですよ。しかも、この上に住んでました」


私が天井を人差し指で指差せばクロコダイルは、つられるように上を見た。


「よく、生きてこれたな」

「え、酷い?」


え、憐れみられてる?え、貶されてる?


「貶してる」

「あ、やっぱり」


住めば都ですよクロコダイルさん。あなたが良い所に住みすぎなんです。


「はい、お待ちどうさまです」

「お、待ってましたー。いただきます」


久しぶりのそれに満面の笑みでスプーンを握った。


「それにしても驚いた。まさか、First nameちゃんが英雄殿と来るなんて」

「今、クロコダイルさんにお世話になってるんですよ」

「そうか」


何やら店長に、じっと見つめられれば穏やかな笑顔を浮かべられた。何かを悟ったらしい。

え、今のでいったい何を悟ったというんだ。


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