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12

それは、とても辛く悲しいきっかけだった。でも私と彼の距離を一気に近付けてくれるきっかけだった。


「First name。おい、First name。良い加減起きろ」

「ん」

「たっく。お前は暇さえあれば寝てやがるな」

「ん、そう?」

「そうだよ。ほら」


何だ、この手は。

差し出された手を凝視しながら首を傾げていると彼は焦れたように私の手を掴み引き上げた。


「うわっ」

「ぐずぐずしてんな。行くぞ」

「あ、はい」


あの手はとって良かったのか。

クロコダイルさんに言われた通り、最近良く寝ている気がする。まぁ、元々よく寝る子だったのは確かだが。


「どこ行くんですか?」


手を引かれながら小走りで彼の隣を歩く。コンパスの長さが違いすぎて彼の一歩が私の三歩ぐらいだ。


「……どこが良い?」

「え?」

「てめぇの行きたいところ、何処でも連れてってやるよ」

「……ッ」


あまりの衝撃に私の足は止まってしまった。

なんて、なんて、なんて、甘い言葉なんだっ!どうしたクロコダイル!何があった!?


「あ?」

「あ、いえ、その……」


葉巻を食わえて眉間に皺を刻みながら見下ろされれば何も言えなくなるじゃないか。いきなり何処でもと言われましても、英雄と呼ばれ、目立つ風貌の彼と出掛けたら注目の的となってしまう。


「相変わらず欲のねぇ奴だな」


何処か何処か何処かと悩んでいたらクロコダイルさんに溜め息を吐かせてしまった。

「あ、じゃあ……」と言って来たのはここ、以前私が住み込みで働かせて頂いていた酒場。


「ここかよ」

「店長のスパゲッティとチャーハンは最高なんですよー。こんにちはー」


カランカランと懐かしい音を発てて中へ入れば、賑わっていた酒場が凍りついた。

あら、良い反応ですね。


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