11
色のない日々だった。どうしたというのだろうか。無気力になってしまった私はベッドから起き上がることさえ苦痛で仕方ない。
傍らにない温もり。夜、眠りに落ちる時も、眠っている間も、目が覚めた時も冷たいベッドに自然と涙が伝っていた。
どうしたというのだろう。今までにない体の怠さに困惑するしかなかった。鍛練に行くこともなくなり、ロビンが様子を見にくるようになった。
そっけない態度の中に見え隠れする優しさに、やっぱりエリザを感じた。
ねぇ、ナナちゃん。恋って疲れるね。恋って面倒だね。恋って辛いね。恋って苦しいね。こんなことなら、こんなことなら、恋なんてしなければ良かった。
彼のことなんか……。
「……ッ」
紡げない言葉。だって、だって私は彼のことを……。
「First name」
不意に呼ばれた名。声のした方へゆっくりと顔を向ければ。
「クロコ、ダイルさん」
たった一、二週間会えなかっただけなのに、まるで何年かぶりに会った気がした。
込み上げてくる涙をもう無理矢理堪えようとする気力もなく、ただ流しておいた。
「おかえりなさい」
「……」
無言で近付いて来る彼は珍しく葉巻をくわえていなかった。
だからだろうか。大好きなもふもふのコートに染み付いた女物の香水が際立ち、気付いてしまった。
あぁ、そうか。彼は今まで女のところにいたのか。
彼は王下七武海のクロコダイルだ。この国の英雄だ。腐るほど女なんかいるに決まっているじゃないか。
何を今さら悲しいとか思っているんだ。
彼に抱き締められながら涙を流す自分が滑稽で仕方がなかった。他の女の匂いがしようと彼に抱き締められていることに喜びを感じているのだから。
心と体が引き裂かれた。[ 211/350 ][*prev] [next#]
[目次]
[栞]