06
緊迫した時が過ぎる。時計の針の音が一際大きく響いていた。私は彼の瞳から目を逸らすことができず、額から冷や汗が流れ落ちた。
彼がどうしてこんなにも怒っているのか分からなかった。
「何してる」
地を這うような低い声が静寂を破った。一気に進みだした刻に、ぶわぁっと体の奥から熱が溢れだした。
「何してると聞いているんだが、お前は質問にも答えられない馬鹿だったか?」
「か、髪を切ろうと……」
発した声は震えていた。まるで、私が悪いことをして責められている感覚に陥る。
「お前は本当に掴みどころのねぇ女だな」
「え」
「俺を助けるわ、そのくせ味方じゃねぇとほざく。勝手に血を流して倒れていれば、俺を拒絶しやがり、帰って来なくなったかと思えば宮殿でコブラと仲良く茶ぁしてる」
「ちょ、ちょっと、クロコダイルさん?」
このオジサンは急に何を言い出すんだ。しかも真顔で。
「終いには、傍にいたいと言いながら殺してくれと頼むは……お前はそんなに俺を弄んで楽しいか?」
「弄んでなんか……ッ」
短剣を掴んでいた手が緩んだ時、彼が私の手から奪い床に落とした。短剣は真っ直ぐ床に突き刺さる。
そして彼の手が私の髪を掴み上げた。
「……ッ、クロコダイル、さん」
痛みに顔を歪めれば彼の瞳が揺らいでいるのに気付いた。
「髪は切るな」
「え」
「俺の傍にいたいなら、切ることは許さねぇ」
そう言うと髪から手を離し、何事もなかったかのように彼は仕事に戻った。
また頭の中が、ぐちゃぐちゃになる。意味が分からない。彼が何をしたいのか分からない。
「おい」
「あ、はい」
「突っ立ってないでさっさと着替えてきて、茶いれろ」
私は言われた通りシャワーを浴び、着替えて紅茶の準備をした。
あぁ、わだかまりが消えない。[ 206/350 ][*prev] [next#]
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