×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -
19

船も海も風も静まり返った頃、暗闇から話し声が聞こえてきた。私は溢れだしそうな感情を堪えて風になる。

こうなることは始めから知っていたじゃないか。仕方がないことなんだ。これが、この物語りなのだから。

そう言い聞かせる自分と、そうじゃないでしょって首を必死に振る私がいた。


「悪いな、サッチ隊長」


ティーチの振り上げたナイフが月光に反射する。


「……ッ」


私はナイフを短剣で受け止め、ティーチとサッチの間に体を押し込んだ。


「First name!?」

「ゼハハハハ!来ると思ってたぜ、First name!」


ティーチの言葉に怯む。どうしてと揺れた気持ちをすぐに振り払い短剣を握る手に力を込めた。

視線だけで甲板の端を見れば悪魔の実が転がっていた。どうやらティーチはまだ能力者ではないらしい。


「First name、どうして……」

「サッチ隊長、怪我は?」

「すまねぇ。足をやられた」

「そうですか」


そのぐらい、命に比べたら安いものだ。


「ねぇ、ティーチ。やめようよ」

「馬鹿言っちゃいけねぇ。俺は長年この日を待っていたんだ」

「ティーチ!?どういうことだ!」


サッチは叫ぶ。しかしティーチはサッチなどもう眼中にないようで私の目を覗き込みながら、いつもと変わらないように唇に弧を描く。


「First name、邪魔するな。お前も殺すぜ?」

「ティーチ、私は、私は、ティーチのこと家族だと思ってるよ?」

「ゼハハハハ!泣けること言ってくれるねぇ」

「だから、やめよ?」

「駄目だ」


そう言ったティーチの目は黒よりも真っ暗だった。しかし、そこに過るのは断固たる決意。


「……だったら、私が力ずくで止めるから」


私は未だに交えたままの短剣に力を込めて、腰を低く落とした。


「お前には無理だ。だって俺達……家族だろ?」


あ、やばい。

思った時にはもう遅く、交えていた短剣は弾かれ、態勢を戻す余裕もなくティーチのナイフが私目掛け振り下ろされた。

死ぬんだ。


「だめぇええええ!」


死が横切った時、甲高い叫びが静閑な海に響き渡った。そして、月明かりを遮るように影が視界を覆った。


「え」


手を広げた背中は崩れるように私に覆い掛かってくる。それを反射的に受け止めた。温もりに手を這わせ、ゆっくりと胴に手を回せば
、よく知っているヌチャリとした感触。

あぁ、やだ、嘘でしょ。


「……サッチ?」

「ゼッハッハッハ!面白え!サッチ隊長はお前を庇い刺された!その上、足手まといも増えたようだな、First name!」

「え、や、やだ、サッチ。ねぇ、サッチ?……ッ、サッチ!」

「……ッ」

「あ」

まだ息がある。まだ、生きてる。大丈夫、大丈夫。すぐ処置すれば、ドクターならサッチを助けてくれる。


「おい、お前。First nameに来るなって言われてなかったか?」

「……アイちゃん」

「First nameさん!」


そう、あの甲高い叫び声の正体はアイちゃんだった。そして何故かアイちゃんはティーチの手の中に。

あぁ、これだから巻き込まれヒロインは。


「その子を離して」

「あぁ、この女はいらねぇな」


そう言ったティーチはゴミのようにアイちゃんを甲板に叩き付けた。


「ちょっ!?ティーチ!」

「なんだ、First name。お前はこの女好きじゃねぇだろ?」

「……」

「ゼハハハ。なぁ、お前ら迷い子は何処まで未来を知ってるんだ?」

「え?」

「とぼけるんじゃねぇ。お前らは知ってるんだろ?……世界の行く末を」


何故?

そんな疑問はすぐに消えた。


「ははっ、ねぇ、ティーチ」


思わず笑い声が漏れる。サッチを抱え、俯いていた顔を挙げて真っ直ぐティーチの目を見据えた。


「お前、腐っても海賊だろ?海賊がつまらないこと聞くんじゃねぇよ」

「……ハッ!ゼハハハハハ!そうだ!!海賊は面白くなきゃいけねぇ!!お前の言うとおりだ!」


豪快に笑うその姿は今までと何一つ変わりないのに。なのに、あぁ、もうその隣で私が笑うことはないんだ。


「First name、やっぱりお前は良い女だぜ」


ティーチは満足そうに笑い背をむけた。そして悪魔の実を手にしたティーチは、また私を見る。


「お前は殺さねぇよ」


最後にそんな声を呟いてティーチは闇に溶けてしまった。情けないことに金縛りにあったかのように私は動くことができなかった。

ポツリと冷たい滴が頬に当たる。月は厚い雲に隠され、雨が降りだした。


[ 199/350 ]

[*prev] [next#]
[目次]
[]