11
眩しいほどの晴天。私はバンダナを外し髪を風に靡かせた。
「改めまして、私はFamily nameFirst name。東京に住んでたただの専門学生。そして、今は白ひげ海賊団一番隊、風来のFirst name。さぁ、聞きたいことは?」
「まず、私も、たぶん、あなたと同じ、その、世界の人間、だと思う……」
「うん、だね」
遠くの方で何かが跳ねた。イルカかな?
「ワンピース、知ってますよね?」
「もちろん、自他認めるヲタクですから」
「そう、ですか……。あの、これ、トリップですよね?戻れますよね?戻れないんですか?」
あ、この子違う。私とナナちゃんとは違う。確かにここに来た時、不安も恐怖もあった。でも、帰りたいなんて一度も思わなかった。
「そうか、うん」
「……?」
「あなたが、それを望むなら戻れるかもしれない」
「どういう……」
「私は、それを望んでいない。だから……」
だから、もうあの世界での私は死んでるもの。
「迷い子」
「え?」
「人生に迷いし子供。あははっ、もう子供じゃないけどね」
左手首のバングルを見つめて微笑む。ナナちゃんと私を紡ぐ証。二人だけで良かったのに。神様は何て余計なことをするんだ。
「黒ひげ」
びくりと体も心も動揺した。聞かれると思ってた。返答は決まってる。
「どうして?ワンピース知ってるなら、どうして笑ってられるの!?今、あいつを殺しちゃ……ッ」
風が彼女の呼吸を奪う。
「家族を、私の家族に向かってそんな口きくな。次言ったら……」
殺すよ。
一番私が分かってるんだ。来たばかりの奴に何がわかる。今更、別れる道なんて考えたくないんだ。だって、もうこんなに幸せな思い出が募ってる。
「First nameー!」
「……エース」
能力を解き、何事もなかったかのようにエースに笑顔を向ける。
「あれ、お前確か……」
あの子を見てエースが考える人のポーズをとる。横で私はケラケラ笑う。
「アイです」
「あ、そーだそーだ。悪いな、まだ名前覚えられねーでよ。それにしてもアイだなんて良い名前だなー。……きっと愛されるために生まれてきたんだな!」
太陽のように眩しい笑顔から私は視線を逸らした。
ねぇ、その笑顔は嘘でしょ。今、どんな気持ちで言ったの?そんな無理、しないでよ。
私は咄嗟にエースの手を取り風に乗った。あの子にエースを近付けたくなくて。[ 191/350 ][*prev] [next#]
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