20
レインディナーズに戻れば、彼は無言のまま自室へと入って行った。彼の背中から重たい空気が伝わって来る。
「あの、クロコダイルさん?」
「あ?」
コートをソファーに放り新しく出した葉巻に火をつける。
やっぱり何か違う。
「私は、ここにいて良いんですか?」
「何度も言わせんな。てめぇで決めろって言っただろうが」
「……」
「お前が、ここに居ようが居まいが関係ねぇ。さらに言えば、死のうが生きようが関係ねぇんだよ」
「……ッ」
だったら何で……。
「てめぇのことも、てめぇで決められねぇ奴が、よく海賊を名乗ってんな」
「……」
「前にも言っただろ。海賊なら欲しいものは奪え。何のために、お前は海賊になった。欲しいものがあったからじゃねぇのか。半端な気持ちで海賊名乗ってんなら……死ね」
「……」
奪え?奪う?私は欲しいものを奪いたいの?違う。違うんだよ。そんなんじゃない。奪いたいんじゃない。そんな形で手に入れるものが欲しいんじゃない。
私は、ただ、ただ、欲しかっただけ。本当に欲しかっただけなの。
待ってちゃだめなの?ナナちゃんみたいには手に入れられないの?奪うまでしなきゃ、私は愛を得られないの?
奪った愛は私が欲しかった愛なの?
俯いたまま何も言わない私に彼の苛立ちは募り、気付いたらベッドに押し倒されていた。
「てめぇ、何でここに来た」
首筋に当たる鈎爪。冷たい感覚が身体中を駆け巡る。
何で?あなたの愛が欲しかったから。でも奪いたいわけじゃない。与えられたいの。
「……あなたに会いに。なんて言ったら、あなたは笑うよね」
「……」
あぁ、もう駄目だよ。愛なんてないよ。愛なんて、無理だよ。彼の言葉に一喜一憂して馬鹿みたい。苦しい。
「……殺して良いよ」
ほんとだったら、この世界に来た時点で私は死んでた。それに……。
「……ッ、愛に溢れたこの世界は私には生き辛い」
私は手に入れられないのに周りは愛に溢れている。そんな世界で笑ってられるほど私は良い人間でも馬鹿な人間でもない。
もう息ができないよ。まるで海の底にいるようで。もがいても、もがいても口から出てくるのは誰の名前でもない、ダレカ。
「……ッ、馬鹿野郎」
崩れ落ちるように覆い被さった、あなた。
そんな、あなたの温もりさえ、今は苦しい。[ 180/350 ][*prev] [next#]
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