20
棚も、ランプも、テーブルも、このソファーも良い趣味してるなと部屋を見渡していたら、いつの間にやら向かいにクロコダイルさん。
足音もありませんでしたが、砂にでもなったのだろうか。そういえば粒子になった姿を拝見してない、残念。
「おい」
「はい」
「……」
「……」
「……チッ」
「おい」の先を言わない彼に何だろうと首を傾げていたら舌打ちをされた。
不服だか不愉快だか、私は彼の「おい」の言葉の意味を察することができなかったようだ。
「えっと、……何でしょうか」
葉巻をくわえ、どっしりとソファーに腰掛ける姿は素敵なのだが、それ以上に怖い。
「失礼、社長」
タイミング良く入ってきたロビンが女神に見えた。ロビンは、ちらっと私を見、テーブルを見、そしてクロコダイルを見た。
「あら、今日はまだお茶にしないのかしら?」
「チッ……、ミス・オールサンデー。この雑用使えねぇ」
「う」
痛い痛い痛い、あー呼吸困難になりそう。
どうやら彼はお茶の時間にしたかったらしい。さらに私に準備しろと言っていたらしい。
昨日今日で「おい」の一言を理解できるわけがないのだか、何だか自分が悪い気がしてきた。
「風使いさん。この時間は社長、休憩なの。お茶を準備してあげてね」
「あ、はい」
反射的に立ち上がったのは良いが、お茶の準備とはいったい……。
「あの、お茶って……」
「あ?」
いやいやいや、お話中に遮ったのは私が悪いが、本当に怖いからやめて。
「ご、ごめんなさい。あの、お茶って、コーヒーですか?それとも紅茶?あ、緑茶派ですか?」
口の端を引き釣らして何とか言い終えた。私、頑張った。だからロビンさんクスクス笑わないで下さい。恥ずかしくて惨めで消えたくなります。
「……おい」
呆れ顔で溜め息を溢したクロコダイルさん。胸が締まるのと同時に堅く拳を握る。
「はい、社長。風使いさん、社長は紅茶派なのよ。アール……赤色の缶の紅茶の葉で淹れてさしあげて。ちなみに15時には緑の缶よ」
「……了解致しました」
おずおずと部屋に備え付けられている小さなキッチンへ向かう。
赤色の缶て、あーあれか。私の背では届かないところにあったため風になって取った。きっとロビンの背じゃ余裕なんだろう。赤色の缶ってわざわざ言ったのも、きっと私が紅茶の銘柄を言っても分からないから。
微かに聞こえるロビンとクロコダイルの声。
疎外感。
あれ、私、何でここに来たんだっけ。何で船を飛び出したんだっけ。
たった二日で既に心が折れそうだった。[ 160/350 ][*prev] [next#]
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