14
客足も途絶え片付けに入る頃、時刻は深夜を迎えていた。
「First nameちゃん、それ片したら上がっちゃって」
「はーい」
刻一刻と迫る時間に私の気持ちは沈むばかりだった。
グラスを空にしたロビンは優雅に立ち上がる。
「明日、店が閉まったら後に迎えに来るわ。支度しておいてね」
「支度、ですか」
「えぇ、意味は分かる?」
「……はい」
そう言って闇夜に姿を消したのは昨夜。ここでの生活は、あと数時間で終わりなんだ。
部屋に戻れば月明かりが射し込んでいた。わりと住み心地の良い部屋だったな。
「……」
クロコダイルは私を社員にでもするつもりなのだろうか。誘われたら私はどうする?
犯罪組織なんかに入ったら白ひげ怒るかな。マルコには絶対、拳骨落とされるだろうし。レッドたちは……。
「……会いたいな」
そうだよ、私の家はモビー。ここは通過点にしか過ぎない。これから先どうなるか分からないからって何考えてんだ私。
しっかりしろ。それでも白ひげ海賊団のクルーか。
自分を叱咤し奮い立たせ私は決意した。
ラフな格好は終わり。カーゴパンツにワークブーツの紐をきつく締め、ピアスを全ての穴に付ける。誇りの刻まれたベルトを装着し、約一ヶ月振りのバンダナをする。
鏡に映る私の方がやっぱり私らしいと思った。
マントを羽織り、わずかな荷物の入った鞄を背負う。
扉を引いて最後に部屋を見渡せば来たときと変わらぬ殺風景な部屋だった。そこで一ヶ月も人が生活をしていた面影なんて何一つない。
これで良かったんだ。居着かないように、居心地の良いこの場所が当たり前にならないように、私は何も買わなかった。
「……正解だったな」
月が雲に覆われ、光は消えた。扉の閉まる乾いた音が妙に大きく感じた。[ 154/350 ][*prev] [next#]
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