13
日が沈み、昼間と違う顔で店が賑わってきた頃、彼女は現れた。彼女の美貌故か、はたまた身に纏うオーラのせいか、店が一瞬静まり返る。
息を呑んだのは私もだった。だって、まさか、もう終わりだと思ってた。あれから何日経った?
「久しぶりね」
私の正面に座った彼女。カウンターがあって本当に良かったと思う。これ以上、近かったら男じゃないけど卒倒していただろう。
「この店で一番高いお酒を下さるかしら?」
「え、あ、はい。店長ー、いっちゃん高い酒出してー」
「First nameちゃん、言葉使い!す、すみませんね」
「フフフ」
ちょっと、聞いた?フフフだって。さすがロビン姉さん。
ロビンは私を見つめたまま口元に弧を描く。
あぁ、私もその高い酒を一度でいいから飲みたいよ。私なんて「一番安い酒下さい」って言ったよ。店長、明らか眉間に皺寄ったもん。仕方ないじゃん。ほぼ一文無しで飛び出しちゃったんだからさ。
カランと氷の溶ける音がグラスを鳴らす。
ピラリとカウンターの上に置かれた一枚の紙。
「あなた、風来のFirst nameね」
私は慌てて紙を引ったくり、ぐしゃぐしゃに丸めてポッケにしまった。
「……」
「……」
暫しの探り合いの末、先に口火を切ったのは私だった。
「……よく、分かりましたね」
「女の子だとは思わなかったわ」
あ、何かちょっとイラッとポイントに入った。
「どうして?」
「マントの隙間からベルトが見えたの」
余裕な顔でグラスに口をつけるロビン。やっちまったと思わず自分を殴りたくなった。
動揺しているのがバレないように手近にあったグラスを拭いてみる。
「で、何か用ですか?」
「社長がお呼びよ」
店内にグラスの割れた音が響いた。
「First nameちゃん!大丈夫かい!?」
店長が慌てて近寄って来た。
「すいません……」
店長がロビンに謝罪をしている間、私は隠れるようにしゃがみ込んだ。
「First nameちゃん、手で触っちゃ駄目だよ。今、箒持ってくるから」
「すみません、ありがとうございます」
グラスを割ってしまったことにショックを受けてしまったのだろうと勘違いした店長は私の肩をポンポンと叩き裏口に向かった。
「……」
無言でガラスの破片を拾う私。頭上からくすくす笑う声が降ってきた。
何だと見上げれば、さっきよりも楽しそうに笑うロビン姉さん。
あ、悪寒。
「あなた、恋してるのね」
あぁ、最悪だ。どうして、そんなに鋭いのですか。女の勘ですか。はい、そーですか。
真っ赤に染まった両耳を手で覆って俯いた。
隠したって、既に遅し。[ 153/350 ][*prev] [next#]
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