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10

現実味が湧かなかった。まるでフレームを覗いて向こう側にいるように。


「どうして、どうして、どうして?」


濡れた黒い髪。綺麗に後ろに流されていたはずの髪はほつれ、額に垂れ下がっている。

食わえた葉巻の火は消え、彼の眉間には深い皺が刻まれていた。


「ぎゃははははは!どーしたクロコダイル?調子が悪そうだなぁ」

「……」

「七武海も大したことねぇ!てめぇの首を貰えば俺の名は上がる!遠慮なくいかせてもらうぜ!」

「……」


あぁ、腐れ外道め。


「風波裁て」


海賊と彼の間に割り込む。一瞬、空気が固まる。波打つマントに手を滑り込ませナイフを抜き、縦に一本ナイフを下ろす。切ったのは空気。それは波のように振動し対象を二つに裁つ。


「この人には触れさせない」


やっと会えた彼を傷付けさせやしない。

顔の前で構えたナイフ。覇気の代わりに風を吹かせれば船長を失った海賊たちは海へ向かって逃げて行った。

静寂した空気に雨の音だけが響く。そして我に返った民たちは歓声を上げた。

私と彼の空間だけがモノクロになる。

振り向きたいけど振り向けない。背後に感じる彼。

どうすれば良い?彼に会いに来たんだよ。ここで逃げたら全て水の泡じゃないか。

意を決して振り向けば彼はいない。


「え」


違った。彼はいた。しかし片膝を付いた状態で。

あぁ、馬鹿だ。私は馬鹿だ。


「クロコダイルさん!」


慌てて私は彼の顔を覗き込む。彼の表情は苦し気に歪んでいた。


「今、屋根のあるところに……ッ!」

「触んじゃねぇ!」


触れた一瞬は拒絶されて終った。

あぁ、上手くいかないもんだね、神様。出逢えれば、そのままいけちゃうとか思っていた私は何て愚かなんだろう。

滑稽すぎて涙もでない。


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