05
暑さは苦手だというのに、さすがは砂漠の国。毛穴から吹き出る汗。拭っても拭っても、それは止まることをしらない。
肌が焼けてしまうのが嫌でマントを羽織っているが、体にまとわりついて気持ち悪い。
両腕に抱えた紙袋。中身は頼まれた調味料と切れかかっていたトイレットペーパー。木陰に入り買い忘れはなかったかとメモを見直していたところ、どこからか喧騒が聞こえてきた。
小競り合いなんて四六時中起きていることを知ったのはここに来て一週間経った頃。またかと頭の片隅で思った程度で買い忘れもないし店に戻ろうと足を踏み出した時、耳障りな女の悲鳴が聞こえてきた。
おいおい、まじかよ。
半分は簡単に想像できてしまう愚かな人たちへ、そして半分は店ではなく悲鳴が聞こえた方へ向かってしまう自分へ飽きれた。
いつから自分は面倒事に首をつっこみ性分になってしまったのかと溜め息を溢しつつ、速まる足。しっかりフードで顔を覆った後、本気で駆けた。
チンピラか反乱軍か、はたまた海賊か。さて、どれでしょうと人垣を遠目で見れば、あぁ、海賊じゃん。
一ヶ月待ってやってきたチャンス。男に捕まっている女の人には悪いが下手に手を出さず見守らせて頂こう。運が良ければ彼が来る。ちょっと悪くてもペルアンドチャカが拝見できるだろう。
「ママぁあああああ!」
「およ?」
ぐいっと引っ張られたマント。自然と体は傾くわけで見下ろして見下ろして見下ろして見れば、いた。
ちっこい男の子。
「ぼくー、幾つかなぁ?ちなみに私はママじゃないぞー」
「ママぁあああああ!!」
しゃがみこんで諭してみても男の子は叫ぶばかり。どうやら捕まっている女の人がボクくんのママらしい。
「お前らぁ!金目の物さっさとかき集めて来いやぁ!」
あーあ、馬鹿がいるよ。あんな低俗な海賊がいるから海賊は悪者になっちゃうんだよ。
「ママぁあああああ!」
「あらあら、可哀想に。ママが死んだら私が育ててあげよーか?」
ポンポンと頭を撫でれば涙をちょちょ切らせてきょとんと私を見上げたボクくん。
「ん?」
「う、う、うっ」
「う?」
「うわぁあああああん!」
「あー、そうですか。嫌ですか。はい、すんませんね」
まったく、ヒーローは遅れて登場するのが決まりだって知ってるけどさー。
「ちょいと遅すぎやしませんかね」
フードを深く被り直して立ち上がる。
仕方がないから、ボクくんの涙に免じて助けてあげましょう。ほんと、行動的な自分にびっくり。[ 145/350 ][*prev] [next#]
[目次]
[栞]