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苛々する。危うい存在であるエースの戦い方を見ていると苛々して仕方がない。
「エース!お前は引け!」
「まだ傷が癒えてねーだろ!?」
「チッ、火拳!」
止めるクルーに対しエースは止まらない。
「馬鹿野郎!」
技を使う度にエースの顔は歪む。苛々して、苛々して、苛々して、切れた。
「エース!」
私は風になりエースの首を掴む。驚愕した一瞬の内に私はエースを連れたまま船まで飛んだ。
「何すんだ!First name!」
「黙れ!傷が癒えてねぇくせに無理してんな!」
「こんぐらいの傷どおってことねぇ!」
「嘘吐け!」
「……ッ」
甲板に叩き付けたエースに馬乗りになっていた私は、腕の傷を殴り付けた。
「何すんだよ!」
「ぐっ!」
腹を蹴り飛ばされ甲板の縁に背中を打ち付ける。
周りにいたクルーや戻って来たクルーが何やら言っているが苛々しすぎている私には届かない。
「エース!お前は!お前は!」
敵に背を向けないエースの一ページが脳裏に浮かぶ。
どうして自分を大切にしないの?
言葉にならない思いを風に乗せてエースに当てる。
エースと一対一の喧嘩が始まった。
「弱ぇくせに俺に指図すんな!」
「弱くて何が悪い!弱いからこそ自分にできることを知ってる!」
「弱くちゃ意味ねぇんだよ!俺は強くなる!だから俺は逃げねぇ!」
「それが馬鹿だって言ってんだ!何が逃げねぇだ!ふざけんな!お前に守られるほど弱くねぇよ!お前は仲間を家族を信用してねぇだけじゃねぇか!」
「違っ……」
「ふざけんな!ふざけんな!守られて、お前に、エースに何かあったら守られた側は、どうすりゃ良いんだよ!?エースがいなくなったらどうすりゃ良いんだよ!?」
自分でも気付かないうちに頬に涙が伝っていた。消したくても消せない一ページ。守りたいのは私の方なのに守られてしまう無力感。
「う、うっるせぇ!俺は逃げねぇ!」
「……ッ!」
「ばっ!?」
叫んだエースは炎となりその拳が私の胸に伸びた。見守っていたマルコの制止も間に合わず、それは私の胸に当たった。
「あ、あぁああああああ!」
熱い、熱い熱い熱い。胸が焼ける。熱い、痛い、誰か!
「馬鹿野郎!」
呆然とするエースに罵声を浴びせながらクルーは慌ただしく甲板を駆け回る。誰かが持ってきた水をぶっかけた。
火が消える。自らやったものの安堵の息を漏らしたエースに衝撃が走る。
「……ッ!」
殴られた頭を抱えながら見上げれば怒りに我を忘れているイエローがいた。まだ殴ろうと拳を振り上げたイエローを止めに入ったレッドとグリーンの瞳からも怒りが伝わる。
「何すんだよ」
「てめぇ!よくも!」
「馬鹿、イエロー落ち着け」
穏やかな声で宥めてはいるがレッドの拳も硬く握り締められている。
「ちっとやり過ぎたけど、ただの喧嘩だろ」
「エース、君は分かってない。First nameちゃんを見な」
グリーンに言われ視線を移せば思わず「え」と声が漏れた。
いつも目元まで覆っているバンダナは外れ、さらに焼けた服からさらけ出された膨らんだ胸。
「First nameは女だよい」
いつの間にか目の前に立っていたマルコに冷ややかな視線と鉄槌を落とされエースは意識を飛ばした。[ 139/350 ][*prev] [next#]
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