09
「おい!女がいたぞ!」
喧騒の中に確かに聞こえた言葉が自分に向けられているかなんて分からなかったが、駆ける足により一層力を込めた。
止まった瞬間、私は殺される。
何で何で何で?
疑問ばかりが浮かぶ。
どうして私、逃げてるの?どうして?逃げるっていうことは私、生きたいって思っているの?分かんない、分かんないよ。
今までこんなに全力疾走したことがあっただろうか。そう思うぐらいのスピードで私は気を抜いたらすぐ倒れてしまうような縺れる足をひたすら動かした。が、どうやらそれも終わりのようだ。
弾む呼吸を整えるということすら考えることができず、私は前にも後ろにも男たちに挟まれた状況に体中が危険信号を吐き出した。
右左には家並み、前に三人と後ろに二人の男、これは死ぬ。
「まだ女がいたとはなー」
ニヤニヤした男が私を見つめ手に持ったナイフを舌なめずりする。
気持ち悪い。
「や、止めて下さい。その女の子は島の子じゃない」
震えながらも発せられた皺れ声に目を向ければ家の玄関先に立った老人が神頼みでもしているかのように胸元で手を握り締めていた。
「おいおい何言ってやがる。島の女じゃない?現に目の前に女はいるじゃねぇか」
「し、しかし……」
ちらっと私の方を見た老人も何故、私がここにいるんだという目をしていた。
そんなこと私が一番知りたかった。何故、私はここにいるの?ここは、いったい何処?[ 9/350 ][*prev] [next#]
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