18
思い出す、初めてこの世界に来た日を。今でも夢に見ては吐き気に襲われる。
「あ、足が変な方向に向いてたの。片腕が無くてね、まだ血が滴り落ちてた。生気のない目は白眼を剥いて、だらしなく開いた口からは涎と血が伝い、眉間に、ッ……眉間に穴が開いてた。それは人じゃなくて死体だった」
彼女の瞳から雫が落ちた。
「その後、その後……」
手が震える。もう克服したはずなのに、あの時のことを思い出すと震えが止まらないんだ。
「私は真っ赤な血飛沫を浴びて三人の人間を殺した」
「First nameちゃん!」
何でナナちゃんが泣くの?ナナちゃんが私を呼んだからなのに。泣きたいのは私なのに。
「ごめっなさい!ッ、ごめんなさい!ごめんなさい!」
「私は、ナナちゃんのせいで人殺しになった。忘れないで。私は人殺しになったの」
口を押さえて涙を流しながら必死に頷くナナちゃん。
「ナナちゃん。でもね私、家族ができた」
彼女は頷く。嗚咽が漏れてる。きっと今は言葉なんて発せられないんだ。
「ナナちゃんのおかげ。初めて、ナナちゃんが私を呼んだって知った時、恨んだ。きっと今も。でも、嬉しいこと幸せなこともいっぱい知った。ナナちゃんのおかげ」
いつの間にか私の頬は緩んでいた。
「三年間、何の音沙汰もないから心配した」
号泣する彼女の肩を抱き寄せ、ぎゅっと抱き締める。
「ナナちゃんが生きてて良かった」
耳元で囁いた私の言葉にナナちゃんは声を上げて泣いた。
遥か彼方まで続く海。
ナナちゃんの泣き声と豪快に笑う白ひげの声だけが響いていた。
厚い雲が途切れ隙間から顔を出した太陽の光がライトアップのようにモビーに降り注いだ。[ 98/350 ][*prev] [next#]
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