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07

黄金色に輝く獅子の肢体には矢が刺さり、そこから赤黒い血液が滲み出ていた。

苦々しいく顔を歪めるヘル。

獅子は影のように陰気な狼たちに囲まれていた。いつもの獅子ならば狼などひと睨みで蹴散らしてしまうのに、怪我をしている所為で狼が図に乗ったようだ。


「お前たち!百獣の王に牙を向けるとは、何事だ!」


狼たちは、ゆらりと振り向いた。太陽が傾いたせいか、はたまた森が深いせいか、狼たちの双眼が鈍く光る。


「ふんっ、人間風情が我々の世界に口を挟むとは。それこそが、人間の思い上がりだとは気付かないのか」


唸ったのは、狼のなかでも一層闇色のウルフだった。剥き出しにされた鋭い牙にヘルは無意識に一歩後ずさる。

怯んで構えた剣が少しだけ下がった。その瞬間を見逃さなかった狼たちが身を屈め今にも飛び掛ろうとした。

その時、百獣の王の咆哮が森を駆け抜けた。


「ヘル!下がれ!狼どもの言う通りだ。其方が出しゃばることじゃない!」

「出しゃばるだなんて!」


ヘルは悲しみと怒りが込み上げてきた。睨むは未だに赤が流れる矢。


「その矢は人間がもたらしたものよ!その所為であなたがこんな目に遭うなら、それは私の所為でもあるわ!」


百獣の王に矢を放つだなんてと、苦々しく唇を噛み締めた。


「人間の娘よ。邪魔だてするならば、その柔らかそうな肉が、この飢えた同胞たちの腹におさまることになる」


闇色ウルフが言えば他の狼たちの口の端から涎が垂れ、息が荒々しくなった。


「……ッ、かかってきなさい。この私に牙を剥いたことを後悔するが良い」

「ふっ、その言葉そっくりそのまま返そう。いけっ!」


闇色ウルフが低く唸れば、それを合図に襲い掛かってくる狼たち。不思議と恐怖は抱かなかった。本当に恐ろしいことが何か知っていたからだろうか。


「ヘル!」


生々しい肉の割かれる音とともに真っ赤な血飛沫が舞う。

視界を覆った赤に、ヘルは息を呑んだ。

弱弱しく泣いた狼は、やがて命の灯火が消えた。ウルフは、まるで邪魔が入ったとでも言うように唸り、群れを引き連れ森の中へと消えていった。


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