06
声をかける隙もなく行ってしまったヘルにシリウスは呆然としていた。
去り際にこちらを睨んだあの侍女の目は今にもシリウスを殺してやるという目だった。
「シリウス、またお姉様と喧嘩?」
「兄様!ヘルをいじめるなんて!」
「喧嘩なんてしない。いじめてもいない」
珍しく律儀に答えたシリウスは、これ以上第三者にあれこれ言われるのは勘弁だと立ち上がった。
「お姉様のところへ行くなら、プレゼントを忘れずにね」
馬鹿らしい。
シリウスは銀色の髪をなびかせ、花の香園を後にした。
「この部屋に何のご用でしょうか。シリウス王子殿」
人の良い笑顔でシリウスの前に立ち塞がったのは、扉の両側に立つ見張りの衛士とは違う男だった。
見るに騎士。しかも隊長クラスだろう。
人の良い笑顔の裏に隠れた威圧をシリウスが気付かないはずがない。
「ここはヘル、王女の部屋だろう?」
「ご存知でしたか。なら尚更、それを踏まえた上で、我が国の王女の部屋に何の用があるのでしょうか」
「言う必要はない」
「ならば残念ですが、ここは通しかねます。怖ーい侍女になんぴとたりとも通すなと言われてましてね。特に」
シリウス王子、貴方は。
「チッ」
「おっと、行儀の悪いお方だ。親しみは持ちますが、私はこの国の騎士、命に代えても私は貴方の前から退きませんよ」
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