05
「ヘル様、足元お気をつけ下さい。さぁ、こちらです」
人通りの少ない道を選び、シディアスは俯いたままのヘルを誘導した。手を引いていないと、今にもこの幼い王女は崩れ落ちてしまいそうだった。
「あれ?シシー、こんなところで何してるんだ?」
「マクベス、今貴方に構ってる暇はないので失礼します」
シディアスは隠しませず嫌な顔をした。舌打ちまでした。
「酷いなー、ってヘル王女もご一緒でしたか。失礼。シシー、ヘル王女をこんな裏道通らせちゃ……何があった?」
ようやくヘルの様子に気付いたのかマクベスは、ヘラヘラした顔をスッと消した。そこには一国の騎士の顔だけがある。
シシーはがらにもなく、ドキッとした。それがトキメキなのか、畏れなのかはわからないが。
マクベスは周囲を素早く一瞥した。
「ヘル王女の自室へ?」
「え、えぇ」
「さぁ、早く」
まるで敵から二人を護るかのように、マントを翻したマクベスは腰の剣に手を掛けたまま二人を誘導した。
マクベスが誘導したからか、それからは誰にも会うことなくヘルの自室へと辿り着くことができた。
「マクベス、助かりました。今回は貴方に感謝します」
「いや、それより」
部屋に着くなりベッドに伏せてしまったヘルに視線を向ける。
「ヘル王女は大丈夫か?」
「えぇ、ただの恋患いです」
「へ」
今の今、素敵な騎士の顔をしていたのに、なんとも間抜けな顔をしたマクベスにシシーは少し残念に思うも、先ほどまでのピリピリした空気はなんだか好ましくなかった。
「なんだ、俺はてっきり」
「てっきり?」
「いや、控えておこう。じゃあ、もう大丈夫だな」
「えぇ、本当にありがとう」
マクベスはニヤリと笑った。
「俺はいつだって君の味方さ。俺のシシー」
「調子に乗らないで下さい」
ピシャリと言ったシディアスは、マクベスの背を押し、言葉と同じように扉を閉めた。
そして、自分の主を見つめ小さく息を吐いたのだった。[ 45/46 ][*prev] [next#]
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