04
甘い匂いが香るそこは多種多様の花々が絵画の中のエデンのように咲き誇っていた。真ん中には大輪の白い花を模ったテーブルと椅子が並べられている。
「あ、ヘル!」
「お姉様、遅い!」
囲む花々が霞むぐらい美しく咲くアフロディーナの笑顔に少しの眩暈を感じたヘル。白いテーブルの上には軽食と甘い焼き菓子が並べられていた。
「ありがとう」
準備をしてくれたのだろうアフロディーナの侍女に礼を述べれば彼女は綺麗にお辞儀をした。
ディナの侍女は沢山いる。総括する者をはじめに入浴担当、整容担当、食事担当、着替え担当。
彼女は総括のフレア。シディアスがヘルの侍女になった後、アフロディーナの侍女になったのだ。
「ねぇ、はやく食べよー」
テーブルに前のめりになっているユリウスはもう待ち切れないようだ。
「えぇ」
陽だまりの中、優雅な一時。それでもやっぱりヘルの中で蠢くもやもやは晴れてはくれぬよう。
「ユリウス」
背後から聞こえてきたその声にヘルは大袈裟なほど反応する。声さえも愛おしくて今にも泣き出しそうだ。
「兄様!」
「勝手に歩き回るなっていったよな」
「ごめんなさい。でも、僕、はやくヘルに会いたくて!」
無邪気なユリウスの言葉に、彼、シリウスが溜め息を吐いた。その吐息さえ、今のヘルには大きく聞こえる。
「はぁい、シリウス。久しぶりね」
「あぁ、この国の人間は他国の王族を簡単に呼びすぎる」
「仲良しなのね」
皮肉混じりの言葉もアフロディーナには、仲良しの一言で済まされる。さすがのヘルも呆気にとられて言葉もでない。
「仲が良いのは良いが、たまには自分たちの方から来れば良い。王族は対等だ」
「まぁ!行くわ!ぜひ!ねぇ、確かシリウス貴方の国の……」
手を打って瞳をキラキラさせながらシリウスの国へ行く話を始めるアフロディーナに、シリウスは何を言っても無駄だと思ったのか、ユリウスに相手をさせ始めた。
「ヘル、アフロディーナは政治には向いてないな。アフロディーナが後を継いだら即この国は滅びてただろうよ。お前がいて国王は安心だろうな」
「……」
「ヘル?聞いてるか」
「……えぇ」
「なんだ、まだ拗ねてるのか?」
「拗ねてる?」
「そうだろ?たかが」
「また!」
ヘルは叫ぶように言って立ち上がった。ユリウスがヘルの大きな声に驚いたようにヘルを見上げている。
「お姉様?」
「貴方は、また、別にとか、たかがとかそんな簡単な言葉で済ませてしまうのね」
「おい、ヘル」
「そうよね、どうせ私は誰かに求められて産まれてきた存在じゃないもの。どうせ私は」
ハッとして口を手で覆った。
何を言おうとした?今、私は何を言おうとした?
その想いに、自分の愚かさに恐怖した。
「お姉様、何を」
「シシー、部屋に戻るわ」
ヘルは誰とも目を合わせず、ただ震える唇を手で覆ったまま足早に庭から逃げ出した。
言葉にしようとしたのは、これから起こるであろう呪われた恐ろしい現実だ。[ 44/46 ][*prev] [next#]
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