03
本日も中央国は平和な一日が過ぎようとしていた。しかし、何やら城も城下も浮き足だっているようだ。そう、明日は五国合同の誕生祭。各国から貴族や商人が中央国に集って来ているのだ。
城の裏庭、東の塔、東狭間の森に続く庭では、穏やかな時間が流れていた。
木陰で読書をしているのは中央国第一王女、ヘル。
漆黒の髮を持ち、妹とは違う紫紺の瞳を持つ彼女は、まるで太陽を引き立てる影のようだと誰かが言った。
「ねぇ、お姉様」
「何?ディナ。くだらない話なら後にしてくれる?今、良いところなの」
「まぁ、お姉様ったら、私より本の方が大事だっていうの?」
「もちろん」
「酷いわ。聞いた?二人共」
アフロディーナは頬を膨らませて二人の方へ向いた。
「読書の邪魔をしてはいけませんよ。ヘルが一番嫌がることですからね」
「そうそう。懲りずに邪魔をするディナも私は尊敬するけどね」
ヘルと同じように木にもたれながら、ヘルよりも小難しそうな本を読んでいたアトラスが優しく言った。愛馬の毛を撫でながら嫌味を放ったのはベラだ。王女にも関わらず腰に差した剣は既に見慣れてしまっている。
「むぅ、あーあ、早くキース来ないかー」
綿菓子のように甘そうな雲を見上げながら零したアフロディーナの言葉は、もう何千回と聞き飽きていて皆反応する気にも起きなかった。[ 5/46 ][*prev] [next#]
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