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09

中庭の見える外廊を今さっき書庫からとってきた絵本を数冊抱えながら歩いていたら数人の騎士達が向かいから歩いてきていた。

その内の一人がヘルに気付くと、頭を下げながらすっと端に寄った。他もそれに倣う。それが当たり前の行動だ。だが一人当たり前じゃない輩が混じっていた。


「ヘル様、ご機嫌麗しゅう」

「マクベス」

「ちょ、隊長!?」


親し気に手を挙げるマクベスに一人の騎士が動揺する。新顔だろう。他は既に知っているように苦笑する。

マクベスはヘルの周りをきょろきょろと見回した。


「残念、シシーは今私のためにお菓子を作ってるわ」

「シシーのお菓子!?ヘル様はずるいなー。シシーの愛を一身に受けて。羨ましい限りだ」

「何を言ってるの。今や彼女はあなたの奥方でしょう?」

「その節は色々ご迷惑を」

「本当に」


若かりし頃の精悍な顔立ちを残したまま落ち着いた雰囲気の大人の男。今やこの国の騎士団にはなくてはならない男だ。


「最近、剣の鍛練はしていますか?」

「それが、めっきり。ベラにも言われたわ」

「ははっ、あそこの王女様も男勝りなお方ですからね」

「あの、ベラトリクス王女のことですか?」


おずおずの前進言してきたのは新顔の兵士。


「あなたは?」

「あ、失礼致しました!今期入隊しましたジルオール・ライトニングです」


左胸に拳を当て、勢い良く頭を下げる姿は初々しいが我が国の騎士にしては優雅さが欠けるななんてヘルは思った。


「そう、ジルですね。ベラトリクスにお会いしたこたがあるのですか?」

「あ、はい!この間両国で行った剣舞にベラトリクス様が舞っておられまして」

「あぁ、ベラトリクスの剣舞は美しいでしょう?」

「はい!それはもう!この世の者とは思えぬあの勇ましさと美しさの兼ね添えた!」


興奮気味に語るジルに苦笑する。どうやらこの青年はベラトリクスに惚れてしまったらしい。


「おいおい、他国の、それも王女様に恋心なんて抱くなよ」

「た、隊長!恋心なんて!そんな滅相もない!」


呆れたように言うマクベスに慌てたようにジルは首を横に振った。それは、もう首が取れて吹っ飛んでしまうのではないかと言うぐらいに。

何だか可笑しくてヘルは声を上げて笑ってしまった。ちょうどその時、運悪く侍女が現れた。


「ヘル様、はしたないですよ」

「シ」

「シシー!」


なんとこの男、王女のヘルを邪魔だと押し退けシディアスに駆け寄ったかと思えば、そのまま抱き締めたではないか。


「ヘル様!大丈夫ですか?」

「え、えぇ、あなたたちの隊長は本当元気いっぱいですね」


よろけたヘルに慌てふためく騎士とは反対にマクベスは妻に会えたことが余程嬉しかったのか、そのままキスする勢いだ。まぁ、そんなことシディアスが許すはずなんてないのだけれど。


「マクベス!あなたって人は!」

「うっ」


憤慨したシディアスは夫であるマクベスの足を踏み潰しヘルの元へと来た。


「申し訳ありません、ヘル様。ご無事ですか?貴方たちも何故あの馬鹿、ごほん。隊長を止めなかったのです?ヘル様に何かありましたら貴方たちの首なんてすぐに星の彼方へた飛んで行くのですよ」


馬鹿って言い切ったシディアスに危うくヘルは噴き出しそうになった。また、はしたないと言われるためなんとか堪える。星の彼方なんて言ってるが内容はなんて残酷なこと。騎士たちの顔が真っ青だ。侍女の言葉はそれなりに権力があるものだから。


「シシー、良いのよ。さぁ、お菓子ができたのね?お茶にしましょう?ディナは何処にいるかしら?」

「ヘル様、貴方も貴方です。衛士も付けず一人で歩いて、あの双子は何処ですか?」

「さぁ?何処でしょう。シシーは心配性ね。自分の家なのだから一人で歩くのは当然でしょう?」

「最もな我儘を言わないで下さい」


ピシャリと言われてしまえば、もう勝ち目はない。シディアスの機嫌を損ねてはこれから動き辛くなると思いヘルは素直に謝った。


「ははっ、シシーは強いな」

「あなたは今日は部屋に入れません」

「げっ」


呑気に笑うマクベスに冷たい視線と共に帰って来るなと言い放ったシシーは私の腕から絵本を奪うと、もう要はないとばかりに庭園へと向かって歩き始めた。


「あはは、御愁傷様。マクベス」


良い大人が項垂れる姿は何とも気分が良いと知ったヘルだった。


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