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07

カストルとポルックス。今や指折りの騎士だが二人もまたヘルと喜劇的な出逢いをしていた。

当時、ヘル十才。シディアス、十六才。双子、十二才。

それは、珍しくヘルが城下へと足を運んでいた時のことだった。


「即刻、帰りますよ。へ……お嬢様」

「何を言っているの?シシー。せっかくここまで来て」

「せっかく?聞き間違えでなければ、貴方様は城を抜け出したのですよね?」

「いいえ、聞き間違えじゃないわ。それに、侍女付きだもの、ただのお買い物よ」


引きこもり気味のヘルは唐突に行動派になる時がある。それに振り回されるのはもちろん侍女であるシディアスだった。

買い物だなんて、わざわざ変装してまだ言う台詞ではない。


「お嬢様の身に何かあったらどうするんですか?」

「あはは、おかしなことを言うのね。心配ないわ。この国の王女はもう一人いるもの」


ヘルの言葉にシディアスは眉を顰める。ヘルの闇は年々色濃くなっているようにシディアスは思えてならなかった。


「それに、この前ベラに剣技を習ったの」


シディアスは溜め息を吐きたくなった。ヘルの瞳が好奇心で輝いていたから。それはまるで襲われたいとでもいうように。


「実は内緒で騎士たちの訓練所に通ってるの。内緒よ?」


シディアスは陛下に報告しなければならないことが増えて頭を抱えたくなった。最近姿を消すと思えばそんなことをしていたのかこの王女は。


「ほら、貴方の恋人の何て言ったかしら?一騎隊長の……」

「……マクベス」

「そう!マクベス」

「ちなみに何度も言いますが恋人ではありません」

「あら、そう。そのマクベスが内緒で教えてくれてるの」


シディアスは拳を握り締めた。瞼の裏に浮かぶ、ヘラヘラ笑うあの男をその拳で殴り倒したくなった。

良い年こいたオヤジがデレデレと私の王女に何してくれるんだ。


「それにシシーだって、そこら辺の兵士より強いでしょ?」

「いえ、そんなこと少しもありません」

「まぁ、謙遜しちゃって」


お許し下さい陛下、父上。私は主であるこの王女を一発殴ってもよろしいでしょうか。


「あ、見て。あれディナに似合うと思わない?」


こちらの気も知らないで目を輝かすヘルにシディアスは本日何度目か分からない溜め息を零した。だが、城内いる時よりも明らかに良い顔をしているヘルにシディアスの頬も綻ぶのだった。


「走らないで下さい。転びます」

「はいはい」


分かってないな、この野郎。


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