02
ベッドから起き上がれずにいれば、控えめに扉がなった。
「誰?」
「シディアスでございます」
「シシー」
鈴音の鳴るような声の主はヘルの侍女だった。涙の痕が残る頬を拭って入る許可をした。
「おはようございます、ヘル様」
「おはよう、シシー」
礼儀正しく頭を下げる侍女。ヘルの顔を見て一瞬眉を顰めるも素知らぬ顔に戻る。相変わらず愛想のない子だと苦笑するが、今はそれがありがたい。
「妹君がお呼びです」
「そう……」
皆まだ残っているはずだから一緒に過ごそうという誘いに違いない。だけど脳裏を横切った男の顔にヘルは瞼を閉じて首を横に振った。
「行かないわ」
「……そのように」
「ふふ、シシーは行儀が良くて助かる」
「……」
「しばらく部屋には誰も近付けないでくれる?」
「かしこまりました」
「ありがとう」
侍女が音もなく出て行くと、ヘルは力が抜けたようにベッドに倒れ込んだ。
こんな日はあの優しい獅子に会いたい。だけど、今はそんな獅子にさえ見放されてしまった。
シーツを固く握り締める。気を抜いてしまったらまた泣いてしまいそうで。
「レグルス」
愛しい獅子は今何を想っているのだろう。せめて私と同じように温もりがないことを寂しいと思っていて欲しい。[ 31/46 ][*prev] [next#]
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